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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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混沌とした世界(中編)-2

おそらく、ベルツ伯爵やリヒター伯爵などを暗殺すると、伯爵領の中心に置かれたバーデルの都は、男性と女性の異性愛よりも、男性の同性愛の傾向へ傾く。
シャンリーは暗殺によって起きる変化を予想した。

リヒター伯爵を暗殺した場合は、身体は男性だが心は女性である子爵リーフェンシュタールとヘレーネが伯爵の地位と領土を継ぐ。その影響は、女性の同性愛の傾向を生じさせる可能性はある。
ただし、ヘレーネは儀式としての結婚式を行う時に、男性と女性の異性愛の者たちを一緒に集めた。
同性愛、異性愛、どちらも愛し合う心があればあってよし。そういう流れの力を生じさせていた。

ベルツ伯爵をかつてフェルベーク伯爵が村人たちを決起させて内乱を起こして抹殺しようとしたことを、ギレスは知っていた。しかし、噂に詳しい闇商人エラルドでも知らない。領主と村人の信頼関係を揺るがす離間の計略は失敗した。
フェルベーク伯爵領の男性の同性愛傾向への流れの力は、ベルツ伯爵領へは及ばなかったのである。

ブラウエル伯爵領もフェルベーク伯爵領のように男性の同性愛を推奨する傾向なのかと、シャンリーは今後の行動を占うような気持ちで闇商人エラルドに聞いてみた。
すると、ブラウエル伯爵の母親のジャクリーヌ婦人が健在で、小貴族の男性と結婚したらしいという噂があることを知った。ただし、領主はジャクリーヌ婦人の再婚相手の小貴族の男性ではなく、ブラウエル伯爵が伯爵として統治していることもわかった。
シャンリーはジャクリーヌ婦人と再婚した小貴族が、試作品の牡のリングを装着してバーデルの都から放逐した商人ロイドだとは、闇商人エラルドの情報から知ることができなかった。

シャンリーは領主不在、執政官ギレスも抹殺したので、シャンリーの養女にエステルをする書状をパルタの都の官邸でなく王都へ直接、闇商人エラルドに送らせておいた。
これで邸宅や今は焼け跡の遊郭や瓦礫になった賭博場の土地の権利を、エステルが引き継ぐことになる。
これで、新しい執政官が派遣されてきたとしても、邸宅や土地の権利の持ち主だと主張できる。
フェルベーク伯爵領の貴族たちは都落ちしてきた貴族や小貴族たちで、王都へ直接、物事の根回しのために関わりを持つのを避け、パルタの都のフェルベーク伯爵領官邸を通じて、王都の宮廷議会や法務官に対して手続きを行った。
シャンリーは、フェルベーク伯爵領の貴族たちよりも状況を判断して機転を利かせることができた。
王都もバーデルの都と同じように被害が大きく、宮廷議会が政務を行えていないとみて、政務を再開した時は忙しく、多少無理な案件でも受理すると判断した。
このシャンリーの予想通り、エステルは女伯爵シャンリーの養女として、後継者となった。
執政官ではなく、正式に女伯爵エステルとして、バーデルの都の領主となったのには、シャンリーは内心では政務がずさんすぎると呆れた。

王都では教祖ヴァルハザードが、ランベール王になりすまして君臨している。
ヴァルハザードは、ターレン王国を魔族が人間を家畜のように飼い慣らして支配する王国にすると、側近であるゴーディエ男爵と法務官レギーネに語った。
シャンリーの後継者が少女だろうが、ヴァルハザードからすれば家畜を見張る羊飼いぐらいの認識でしかない。
気にかけているのは、祓魔師の聖騎士ミレイユが隣国のゼルキス王国にいるということだけである。
祓魔師の神官や騎士に滅ぼされかけたヴァルハザードは、ゼルキス王国が魔族の王国になるのを、聖騎士ミレイユが討伐するために来ることを最も警戒した。

「蛇神ナーガの異界の門が今は辺境で、ゼルキス王国との壁になっている。これが失われたら、聖騎士は魔族を討伐するために攻め込んで来る。その時のために我々は異界の門をさらに開く必要があるのだ」

教祖ヴァルハザードは、シャンリーとは目的はちがうが、蛇神ナーガの異界の門を開くという方法を見つけ出せとゴーディエ男爵に命じた。
ゴーディエ男爵は、蛇神ナーガの異界の門は生贄を異界へ連れ去ると教えられ、伯爵領ならば国王の直轄領よりも民が暮らしていることから、人の集まるバーデルの都から包囲する伯爵領から贄を捧げさせる計画を立てた。
シャンリーとヴァルハザードのちがいは誰が支配者として君臨するかという事である。ヴァルハザードは自分が君臨することを疑わなかった。

シャンリーは、自分もヴァルハザードから贄として考えられているとも思っておらず、ヴァルハザードがヴァンパイアの王と化しているのも把握していない。

(バーデルの都に異界の門を開く方法。さて、我が師モンテサントに教えてもらうわけにもいかない。たとえ方法を知っていても、バーデルの都をまるごと異界の門にすると知れば全力で阻止しようとするだろう。どうしたものか?)

ゴーディエ男爵は、異界の門を開く儀式を踊り子アルバータの一族が鎮めの儀式を行ってきたのなら、それを逆に行えば異界の門が開くきっかけになるのではないかと考えた。

「確かに踊り子の舞踏の儀式が行われていたら、余は再び甦ることはできなかったかもしれぬ。バーデルの都を王都よりも先に復興させよ。儀式を行うために」
「御意」

そのためにバーデルの都を統治者がいない状況にしておけず、シャンリーの爵位を養女のエステルに与えて、蛇神ナーガの異界の門をバーデルの都へ開く儀式の準備を、ゴーディエ男爵は進めることになった。
政務の処理としてはずさんかもしれないが、ゼルキス王国の聖騎士ミレイユへの対策として、伯爵領を異界化、つまり魔獣と贄の地として、ヴァルハザードに不死なる力を与え続ける仕組みを作り出そうとした。

ゴーディエ男爵はバーデルの都の復興を命じられ、その資金をどうやって捻出するべきか考えなければならなかった。
王都も被害が大きく、バーデルの都を優先と言われたが宮廷議会に政務をさせるには、ある程度の対処が必要であった。


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