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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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混沌とした世界(中編)-12

「執政官ギレスの死は、バーデルの都の統治を放棄して逃げ、王都で捕縛されて獄死したと女伯爵エステルがバーデルの統治を宣言すると同時に公表することになっています。フェルベーク伯爵の死に関しては、私がフェルベーク伯爵として統治するように勅命を受けています。ロンダール伯爵もフェルベーク伯爵の訃報は、御内密に願います」
「勅命ならしかたないね」
「ロンダール伯爵が王に反逆の意志があるのであれば、フェルベーク伯爵は宮廷官僚のゴーディエ男爵と公表してもかまいません。フェルベーク伯爵領には闘技場があり、市民は元闘士の者もいます。ロンダール伯爵領へ彼らを攻め込ませて貴方の命を狙うために住民を虐殺させます。ソラナは、そうなったらロンダール伯爵と私、どちらの軍勢に加わる?」

ソラナにも口止めしておいた。
ゴーディエ男爵はソラナに話しかけた。返事を聞く前にゴーディエ男爵は椅子から立ち上がり、少し離れてひかえているソラナの唇に人差し指でそっとふれ、返事をさせないようにして微笑した。
ゴーディエ男爵は着席してロンダール伯爵とアナベルの前に戻った。

「ゴーディエ男爵が王都からわざわざ来たのは、フェルベーク伯爵の代わりに統治するためじゃないよね。だって、フェルベーク伯爵領はゴーディエ男爵が来るまで貴族だけで統治していたんだから」
「王の勅命については、私は命が惜しいので、気軽に口外できません」
「ゴーディエ男爵が執政官ギレスやフェルベーク伯爵を殺したのか、それは教えてくれる?」
「私は最近、バーデルの都とフェルベーク伯爵領に来たので、手を下したのは私ではありません。それに、私にはわからない。殺害すれば騒ぎになる者をわざわざ狙う意図が読めません」
「男色家が殺したいほど嫌いなんだよ、きっと」

ロンダール伯爵は執政官ギレスを殺害したのは、アナベルだと直感的に感じた。本人が女伯爵として領主になるためなのか、呪術で操られたのかはわからない。

(僕の可愛い妹たちにアナベルが欲しかったんだけどな。とても残念だ)

蛇神を信仰する者は、同性愛者を教義に従い憎む。ロンダール伯爵は、アナベルがシャンリーに感化されたと思った。
肉体を完全に奪ったと知ったら、ロンダール伯爵は激怒していただろう。

ソラナがゴーディエ男爵に心を奪われて虜にされたことには、ロンダール伯爵は興味を示さない。

「話したいことはもっとあるけど、最後にひとつだけ。ゴーディエ男爵、なぜ貴方と交わった女性は眠って目覚めずに死んでしまうのかな?」

吸血されて同時に何回も絶頂して疲れ果ててしまい、生きたいという気持ちと眷族として覚醒する力が眠って死ぬ女性にはないからと説明するのは自分の正体を明かしたくないので、ゴーディエ男爵は少し考えて返答した。

「相手しだいです。私と交わっても死んでしまわない者を探しています。フェルベーク伯爵領はご存知の通り男性にしか興味かない者たちが暮らしていて、女性を奪い合う必要がない」
「ソラナはどうなのかな?」

ロンダール伯爵はフェルベーク伯爵に、伯爵領には、眠りの祟りがあることを話した。伯爵の血筋の者は凶運によって眠り続けて衰弱して死ぬ呪いが、おそらく伯爵領ができあがる前に、蛇神を信仰する信者たちと対立して弾圧した時からかけられていることを説明した。

「貴方と交わった女性が眠り続けて死ぬのは、蛇神の贄になるということだと思われます。バーデルの都は蛇神の贄に人の命を奪う怨念と呪いが鎮められている土地です。贄にならない力がある者ならば、貴方と交わっても眠り続ける呪いにかからないでしょう」

さらにアナベルが、捕捉してゴーディエ男爵に説明した。
王の教祖ヴァルハザードが蛇神の加護によって傷を負っても簡単に回復することや、強い眼力で人を殺せる力を与えられているが、その力の代償として眷族に蛇神の贄を捧げさせる必要があるのだと理解した。
交わって吸血することで死ぬ女性たちとは、蛇神の贄だった。
呪いで贄にされない強い力がある者は、眠り続けずに覚醒して眷族になり、さらに蛇神の贄を捧げ続ける。
眷族として贄を捧げる者として覚醒するということが抜けている以外は、ロンダール伯爵の考えは真相に迫っている。

「ロンダール伯爵は眠りの祟りの凶運から逃れることができました。しかし、蛇神の贄として遊郭の遊女や客は焼死、倒壊した賭博場にいた客も瓦礫の下敷きになり圧死、さらに今も密かに贄が捧げらている状況でしょう。ゴーディエ男爵が交わった女性たちも凶運によって贄として亡くなっています」
「蛇神の贄はそんな昔から捧げられてきたのですか?」
「うん、たぶんターレン王国が建国されるよりも前からね。蛇神の贄は、いろいろな死にかたをするから。でも、ターレン王国か滅亡していないのは、贄にならない人間がいて力の強い子孫を増やしてきたのか、王国の人数が減ると贄に捧げる呪いが人数が増えるまで猶予されたのか、どちらかは僕にも、よくわからないんだけどね」

ロンダール伯爵とアナベル、そしてソラナは、交わった女性が蛇神の贄になるゴーディエ男爵に同情したらしい。アナベルがゴーディエ男爵に言った。

「蛇神の贄にならない女性が見つかるといいですね」

ゴーディエ男爵は蛇神の贄にならない人物に思い当たった。
女伯爵エステル。
あの少女はバーデルの都の虐殺や震災からも生き残り、怨念の力が祟り続けているバーデルの都で暮らしている。

(女伯爵エステルを王の眷族として覚醒させるとするか)

「人を蛇神の贄にする怨念の祟りは消えることはないのでしょうか?」
「祟りの凶運に巻き込まれないように生き残るしか、僕らにはできない。ゴーディエ男爵も強い力がある人のようだから心配ないかな」

ロンダール伯爵とゴーディエ男爵の初会談は終了した。
こうして、フェルベーク伯爵領とロンダール伯爵領の不戦協定が結ばれた。


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