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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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レナードの覚醒(後編)-3

アルテリスが木刀を片手て勢い良く振ると、ひゅっと音がした。

「これは、空気っていうのを木刀で切ってるってことだよね」
「まわりにつまっているから、すぐに隙間に入り込んで小さな風が起きる。木刀が通った直後は空気が薄い瞬間がある。そこにふれたら肌が切れたりする。火は空気がなければ燃えることができない。あと火に水がかかれば消える。でも、蒸発するから熱いし、炎の勢いが強いと火を消しきれない。人のそばで水の壁を作って、ドラゴンが火を吐き続けたら、爆発して吹き飛ばされることもある」
「ドラゴンの頭を水で包んじゃえば、息できないんじゃない。水で壁を作らなくても」
「ドラゴンが水を飲んで、また急いで火を吐くかもしれないから、頭とか口を水で包むのはうまい手じゃないな。アルテリス、口を少し開けて。口の中にある空気で水を少し作る。飲んでごらん」
「あ、この水、うまい!」

テスティーノ伯爵も同じように、マキシミリアンに水を口の中に作ってもらい飲んでみた。

「これはおいしい。でも、いきなり口の中に水があふれたら驚くでしょうな」
「今、飲んだのは猛毒だと相手をだまして、解毒薬が欲しければ降参しろっていうこともやったこともあったなぁ」

アルテリスとテスティーノ伯爵が顔を見合せて、笑い出した。

「公爵様の戦いかたはおもしろい!」
「公爵様にからかわれたと怒る者もいそうですな」
「うん、人の話を聞かない相手は、びっくりさせるにかぎる」

目の前に木刀を浮かばせながら、賢者マキシミリアンは言った。
念の力と魔力で、同じ事がコツがわかればできるらしいことがわかった。

「私も公爵様のように水を作ることができれば、日照りで水不足の領民たちの畑に、水を撒いてやることができます」
「うーん、魔法に頼りすぎても良くないですけどね。空気の中の水が空へ昇れば雲になります。ですが、それを先に水にして撒いてしまえば、雲はできずに日照りが長引くかもしれません。日照りでも水の湧く井戸があればいい。魔法で水を得るなら、地面の底にある水脈をしっかり探すほうが良いと思います」
「魔法の力には、安易に頼らないほうが良いということですかな」

テスティーノ伯爵はマキシミリアンの前で、裂帛の気合の声を上げ木刀を大上段から振り下ろし、凄まじい突風を起こして見せた。

「たしかに、アルテリスが言う通り、これならドラゴンの炎の息吹きと熱風を避けられそうだ」

マキシミリアンはアルテリスに言った。アルテリスがニヤリと笑った。

(うん、公爵様も驚いた顔をしてる。さすが、伯爵様だわ!)

マキシミリアンが片手を前に広げて突き出して、呪文を短く詠唱する。

「なっ、今、公爵様は何をしたんだ?」

テスティーノ伯爵が起こした突風と同じぐらいの風圧の風が森を突き抜けて、枝を揺らし葉を散らした。

「風の魔法。リーナはこれより強く鋭い風の刃を呪文を詠唱せずに使った」

賢者の石を錬成召喚した時のことを、アルテリスとテスティーノ伯爵にマキシミリアンは語った。

「テスティーノ伯爵は呪文を詠唱しないで突風を起こした。呪文の詠唱は、世界に干渉するために行う儀式のかわりみたいなものだ。思念の力で世界に干渉できるというのはすごい」
「魔法もすごいですな。手をつき出されて、これから突風が起きると知らなければ、対峙した相手は吹き飛ばされてしまうでしょう」
「風の力で腕力や俊敏さを補うことに使うほうが効率はいいですよ。それに、呪文を詠唱するあいだに殴られたりするかもしれない」
「腕力や俊敏さを補うってなんだ?」
「アルテリス、僕とあの樹までかけっこしてみようか。先に樹にさわったほうが勝ち」
「ふふん、公爵様、あたいに勝てるつもりかい?」

アルテリスとマキシミリアンは。ほぼ同時に樹の幹にふれた。

「はぁ、はぁ、伯爵様、変わった駆け足のしかただったね。速いね!」
「ふぅ、アルテリスのほうが駆け足は速いんだよ。僕は風の魔法で、ちょっぴりずるをしたからね」

マキシミリアンは地上に靴の裏をつけていない。風でわずかに浮かんで、滑るように移動していた。

「木刀を浮かすように自分の身を浮かしたのですか?」
「そう。そして自分の背中側から風で身を押させたんですよ。余裕で勝てると思っていたけど、アルテリスがこんなに俊敏だとは思わなかった」
「走るのと、魔法で滑るように進むのでは、どちらが疲れますか?」
「魔法を使い慣れて、魔力の制御ができれば魔法を使い移動するほうが疲労感はありません。集中が途切れて、途中から自分で走ることになるのが、もっとも疲れるはずです」

テスティーノ伯爵は、ストラウク伯爵が念の力を込めて、木刀で大岩を割るのを見たことがあるのをマキシミリアンに語った。

「木刀を自分の身体と感じるのがコツだと、その時に兄者が私に言いました。公爵様も、大岩を斬るぐらいはできそうですな」
「テスティーノ伯爵、それは女性を抱いたことがあれば、感じとしてわかるかもしれない」
「ちょっと、ふたりとも、何の話をしてるのさ!」

全力疾走して汗だくで仰向けで寝そべっていたアルテリスが、がばっと身を起こした。

(念の力を木刀に込めるのと、公爵様の言う魔力を使うのは、やはり似たところがあるようだ。たしかに女性の身体に念の力を伝えるのと、木刀に念の力を込めるのは同じようなところもあるか。ひとつ聞いただけで、これほど理解する人がいるとは)

「アルテリス、公爵様と手合わせしたらきっと腰から力が抜けて立って歩けなくされるぞ。絶対に手合わせするな!」
「しっぽがふさふさで、さわり心地が良さそうだと思っていたのですが、残念」

アルテリスはテスティーノ伯爵が、なぜマキシミリアンと手合わせするなと言ったのか、すぐに理解できなかった。

「ダンジョンには獣人の娘はいないのですか?」


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