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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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婚姻儀式祝福魔法とパンケーキ-10

パルチでいえば、手駒不足の泥試合のような状況だとヘレーネは思っていた。
ターレン王国の状況はこのままでは親の総取り、障気の影響で祟りが蔓延する広大な「忌み地」になりかねない。
ストラウク伯爵領やリヒター伯爵領はどうにか確保されたといったところ。テスティーノ伯爵領で異変があれば、テスティーノ伯爵とアルテリスが配置されているので奪われることはないだろう。しかし、動かせない。ストラウク伯爵と巫女のマリカ、リーフェンシュタールとヘレーネも今のところ動けない。
子爵シュレーゲルがベルツ伯爵領に置く手駒に育つのか、まだわからない。今は前世が英雄シモンである子爵カルヴィーノだけが動かせる手駒といったところである。

(リヒター伯爵領を呪詛で穢そうとした誰かは、奪い返すために仕掛けてくるかしら?)

浄化と呪詛。
王国で暮らす人たちの命を賭けたパルチをしているようなものだとヘレーネは感じていた。
この勝負に負ければ、蛇神に祟られてターレン王国は滅亡する。ゼルキス王国からは移住者が訪れてまた祟られる。
やがて「忌み地」として移住する者は誰もいなくなるだろう。

パルチの賭け遊戯ならば「パルタ事変」で騎士ガルドがパルタの都を占拠したことや、学者モンテサントがバルテット伯爵の元から放逐されてリヒター伯爵領からパルタの都へ移住したことなどは、指揮官の騎士の駒、参謀官の学者の駒が置かれたようなものである。
ターレン王国4代目国王モーリッツが障気と呪詛の影響を受け難い護りの都であるパルタの都の建造を完成させたこと。
呪詛の力を使う者たちから、護りの都を置いて領地を確保したといえる。
「パルタ事変」で運悪く失業してパルタの都へ戻されたように思われる小貴族たちは、命を奪う目に見えない障気の影響から運良く逃れることができた。
「パルタ事変」で、ブラウエル伯爵領へ仕官できた世渡りが上手いと羨ましがられた小貴族セブリアンは、ブラウエル伯爵と戦場へ出て命を危険にさらすことになる。
モルガン男爵と執政官ベルマー男爵の駒が地図上から排除され、騎士ガルドやヴィンデル男爵の血縁でもある令嬢ソフィアが置かれた。
王都トルネリカから、妻レギーネの浮気と後宮の妻妾に手を出したのが原因で、パルタの都の執政官として赴任してきたマジャールは、王都から避難してきた駒のひとつかもしれない。
ターレン王国の歴史を浄化と呪詛のパルチの賭け遊戯だとすると、遊戯は建国前の移民たちがあらわれた時代から続いている。多くの人々の命が、蛇神の贄として奪われながら。

カルヴィーノの伴侶に選ばれたシナエルの出身はブラウエル伯爵領である。
呪詛に使われた骨がリヒター伯爵領へ持ち込まれたのも、ブラウエル伯爵領からであった。
ザイフェルトの妻フリーデは、ブラウエル伯爵と因縁がある。
歴史に詳しくないヘレーネは、つながりから考えてブラウエル伯爵が、敵か味方かわからないが重要な駒のような気がしている。
賭けの元締めの親が蛇神ならば、命を没収されないように動く者は子の遊戯者である。自分が不利ならば親遊戯者の勢力に加担して優勢な遊戯者の妨害をして、有利な状況に持ち込むのも、遊戯で滅ぼされないための手口である。
遊戯者の駒が死亡して地図から外されることで、子が全滅しても元締めの親の勝利というのは、パルチの賭け遊戯の規則なのである。

浄化か呪詛、まだどちらでもない駒。
もともと元締めの蛇神の勢力の駒。
誰が敵で、誰が味方なのか?
ヘレーネは見極めなければ、勝てないと思っている。自分が生き残るだけでは、元締めの総取りで遊戯は終了する。

フェルベーク男爵は、女伯爵シャンリーの親衛隊青年将校ギレスから、情報を集めている。バーデルの都を暴動鎮圧によって破壊された状態から女伯爵シャンリーが復旧したところで奪うことができないかと考えていたからである。
若い青年将校ギレスのことは気に入っているが、彼とは火遊びであって本気ではない。男色家というのは色恋に深くのめり込む者と、同じ嗜好の者たちと広く交わる者に分かれる傾向があった。
若い青年将校ギレスの不幸は、のめり込む者であったことであり、その慕う相手のフェルベーク伯爵は広く交わる者だったことである。
ターレン王国では男色家の婚姻は認められていない。また交わる相手との子を産むこともないため、恋人になることまでの関係までしか持てない。恋人にのめり込む者たちが養子縁組をして親子として血縁関係を持ち一緒に暮らすことは、密かに行われていた。
青年将校ギレスは、フェルベーク伯爵から興奮して交わりを求められながら、伯爵の養子となり、子爵の爵位を得ることを夢みていた。
フェルベーク伯爵は、30代半ばの見た目は気品ある紳士である。また社交的であり、礼儀正しい態度を人前では心がけており、女伯爵シャンリーは男色家と看破したが、巧妙に自分の嗜好を隠している人物である。

もしもヘレーネが、この幼女や美少女好きな嗜好を持つ伯爵に見つかれば、興奮した伯爵から全身よだれまみれになるまで舐めまわされるだろう。
背丈は中背で体型は小太り。20代半ばだが、30代半ばかそれ以上に見えるのは、体型と薄い髪のせいだけではないだろう。欲望を剥き出しにした視線を向けられた若い女性は、鳥肌を立てたじろぐだろう。ロンダール伯爵には亡くなった両親の遺産がある。だが社交的ではなく邸宅に引きこもり暮らしている。
人の好き嫌いがはっきりとしている女伯爵シャンリーが、この人物を殺さなかった理由がある。ロンダール伯爵の両親の死因もこの理由に関わっている。彼は呪詛使いの一族の末裔なのである。
シャンリーは子爵だった頃からの取引相手である。辺境から呪物蒐集家の彼は、焼け跡の骨をシャンリーから入手した。
骨を使い両親を呪殺した彼は、恋愛成就の守護石と偽りフリーデの幼なじみで画家のダミアンに、呪詛の骨を渡した。
自分が呪いの道づれにされないために。


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