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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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リーフェンシュタールの結婚(前編)-5

父親と息子。
腹ちがいの姉ヘレーネは、領主の邸宅では暮らさずに、母親のアリーダと暮らしていた。ヘレーネは、容姿や物腰をふくめて美しい。父や兄とはまったく似ていないと思う。

「カルヴィーノから連絡があれば、君の滞在している宿屋へ使いの者を出そう」
「はい。子爵様」
「君も子爵ではないか。私が歳上でも、子爵様と爵位で呼び合うのは止めよう。リーフェンシュタールと名前で呼んでくれたまえ」
「わかりました。リーフェンシュタール様。では、失礼致します」

のちにリーフェンシュタールのことを、
シュレーゲルは兄上と呼ぶようになる。
10年後、伯爵領の統合が行われ、リーフェンシュタール、カルヴィーノ、そして、シュレーゲルの3人が盟主として伯爵領を統治する人物となる。
盟主たちには、3姉妹の女騎士が仕えていた。その父親はザイフェルトであり、母親はフリーデである。3姉妹は父親のザイフェルトの武術や勇猛果敢な性格をたしかに受け継いでいる。
大師範ザイフェルトを創始者とする武術は、女騎士3姉妹によって後世へ伝えられていくことになる。

預言者ヘレーネが、ザイフェルトに視た未来はトレスタの街へ同行している時には、まだ存在していない未来である。
ザイフェルトの運命の選択は、まだ行われていない。

(このままだと、ザイフェルトは死ぬ。何か変えることはできないかしら?)

足元をついて歩いているレチェが、考え事をしながら歩くヘレーネを見上げる。
ザイフェルトは、ヘレーネの母親アリーダの面影をヘレーネに見ていた。容姿や黒髪や褐色の肌の色がとても似ている。まだ子供だったザイフェルトはアリーダに見とれてしまっていた。

(思えばあれが、女性に初めて心を奪われた初恋というものだったのかもしれない)

ザイフェルトは自分の子供の頃のことを思い出しながら歩いていた。アリーダはベルツ伯爵領の村を訪れて治癒の法術で村人たちを救っていたということや、ヘレーネが9歳の時に亡くなったことを聞いた。

「アリーダ様が生きておられたら、会ってみたかった」

ザイフェルトが心の底から残念そうに言う声を聞けば、ヘレーネはどうにか死の運命に囚われているザイフェルトを救うことができないかと思うのだった。

「ザイフェルト、お師匠様は無事か?」

リーフェンシュタールは、ヘレーネを連れて訪れたザイフェルトにいきなり質問をした。ヘレーネの紹介を済ませる前に柳眉を曇らせ、不安げな表情を浮かべていた。
ザイフェルトは、令嬢ヘレーネには嫌な気分にさせる話かもしれないと気にしながらも、モルガン男爵の令嬢ソフィアの復讐や、執政官ベルマー男爵が小貴族の女性たちを好き放題に凌辱したことの報いを受けて、衛兵の訓練所の庭で住民たちの前で騎士ガルドに処刑されたことやモンテサントが住民たちの混乱が起きないように対処していたこと、騎士ガルドが次の執政官が来るまでの治安維持を行うことの承認を求める書状を、モンテサントが作成したことを聞かせ、モンテサントは無事であることを知らせた。

「バーデルの都のように住民の暴動が起きなかったのは、お師匠様が裏工作をしていたというわけだな。ザイフェルト、あの人は、やはりすごい人だ」
「リヒター伯爵領へ向かう途中で、暴動を鎮圧したばかりのバーデルの都を見ましたが、ひどい有り様でした」
「ザイフェルト、モルガン男爵が亡くなれば、お師匠様は伯爵の誰かが死ぬかもしれないとおっしゃっていたのを覚えているか?」
「ああ、そう言っていた。あれは、バーデルの都をバルテット伯爵が不在のあいだに、伯爵の誰かが騎士ガルドのように占拠していたら暴動を鎮圧した女伯爵シャンリーの衛兵隊と戦い命を落とすという意味だったのだろう」
「王都から出兵したのではなく、衛兵隊が暴動を鎮圧したのか?」
「そのようだった。ロンダール伯爵領とフェルベーク伯爵領の衛兵たちが亡くなった人たちの遺体を焼いていて、ある程度までかたづけが終われば帰れるとぼやいていた」
「女伯爵シャンリーを見たか?」
「いや、見かけなかった。しかし、バーデルの都はしばらく使い物にならないだろう。暴動で焼かれた建物も多く、バルテット伯爵の自慢の邸宅や庭も跡形もなく焼け落ちていた」

ところどころでくすぶった煙が立ち上る焼け跡。焼け焦げた臭気が強烈に鼻を衝く。ヘレーネは、パルタの都の話を聞いた時よりも、バーデルの都の惨状をザイフェルトが語ったときのほうが明らかに顔色が悪くなった。

「ザイフェルト、バーデルの都の話はわかった。そこの窓を開けてくれないか、部屋に風を入れたい」

リーフェンシュタールはそう言ってソファーの背もたれに体をあずけて、ヘレーネと同様に顔色が悪くなっていた。
ヘレーネとリーフェンシュタールの目が合った。

「窓を開けたら肌寒いかもしれないが、平気か?」

ザイフェルトはそう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。

「悪い男ではないのだが、ザイフェルトは、たまに鈍すぎる」
「同感です。大丈夫ですか?」
「……お気遣い感謝する」

これがリーフェンシュタールとヘレーネの初めての会話であった。
感応力が鋭い二人と、ザイフェルトとの感性の差がある。
しばらく3人は黙り込んだまま、リーフェンシュタールとヘレーネは目を閉じ、こみ上げてくる吐き気が落ち着くのを待っていた。
ザイフェルトは、ベルツ伯爵領から人質とされている妻フリーデをベルツ伯爵から奪う相談をいつ切り出そうか、黙りこんで考えていた。

「ザイフェルト、お連れのお嬢さんを私に紹介してくれないか?」

リーフェンシュタールは気分が落ち着いてきて、自ら窓を閉めて振り返ると、ヘレーネを見つめて、ザイフェルトに声をかけた。

ザイフェルトは、ヘレーネがベルツ伯爵の令嬢でありながら、伯爵領から出奔している身の上であると子爵リーフェンシュタールに伝えた。


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