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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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魔獣変化-3


不老不死を求め、異界のものと接触しようとして、災いを引き起こしてしまった歴史上の最初の人物が、神官教団の教祖ヴァルハザードである。
それから現在に至るまで、多くの権力者が不老不死を求めて、神聖教団はその後始末をしてきた。

魔獣変化。
神聖教団の教祖ヴァルハザードは、信者たちを犯し、生き血を啜る怪樹と成り果て、戦いに生き残った7人の大神官が神聖教団を引き継いだ。それからは、神聖教団では、対魔獣戦闘要員の育成を続けてきた歴史がある。

魔獣の存在が神聖教団内だけではなく広く認知されてきたのは、大陸各地の墳墓跡がダンジョンとなってからである。
ダンジョン内には、おとぎ話や神話に語り継がれている魔獣が生成されていた。
やがて、魔獣を狩り魔石を採取するハンターが職業として、戦で働く傭兵と同様にあらわれる。
戦を自分でしたくない王や貴族たちの代わりに戦うのが傭兵たちなら、王や貴族の代わりにダンジョンから魔石を採取するのがハンター始まりである。

伝説の賢者の石を、細工師ロエルに魔石とリーナの意識が宿った錫杖を融合してもらい作り出そうとしているのは、賢者マキシミリアンが不老不死を得ようと望んでいるわけではない。

魔石を過剰に肉体に融合させたヴァルハザードは、異形の怪樹となり果て、人としての意識を消失した。不老不死を望んだ権力者たちは、若返りなど、自分の肉体に執着してきた。
肉体は老いて、やがて、肉体の死と同時に、意識の死を迎える。
やがで、不老不死を望んだ者たちのうち、肉体と意識が同時に死を迎えないことがあると気づいた者もあらわれた。
魔石を摂取して、霊感能力を得た者たちは、肉体なき亡霊となった意識の断片、強い感情などの思念が残ったものを察知した。

肉体が老いて使い物にならなくなるのなら、意識だけの存在となればいい。死んで肉体を捨て、意識だけの存在となる。
長期間にわたって、意識を消滅させずに維持し続けることができるか。
それもまた難しいことをすぐに知ることになる。大地、風、水、光、闇……強い力に吸収され、人の意識はたやすく消失してしまうからである。
肉体なき不老不死という考えを思いついた研究者たちは、神聖教団が亡霊の思念の影響を呪いとして、身を守り、世界にある力に吸収させる祓いの法術として実践してきた考えかたと、やがて同じ結論に到達した。

不老不死は存在しない、と。

世界にはいろいろな力に満ちている。それは、世界樹を持つエルフ族には常識であり、満ちている力を利用する技術を魔法として研究し続けてきた。
死を迎えると、世界樹の力に回収され、新たな命が生成されてくる。それが常識のエルフ族は不老不死を望む思想にはつながらなかった。

ただし、魔獣と戦う日々が魔獣の主たちが異界へ去ることで失われると、古代エルフ族は意識を魔石に宿し、肉体は世界樹へ返してしまい、ずっと楽しい記憶の中で、魔石の夢の中に暮らす者たちがあらわれた。この結果、戦いの中で飛躍的に発展をみせた魔法技術の多くが失われることになった。

蛇神の錫杖に、僧侶リーナが宿った状態を、賢者マキシミリアンは、古代エルフ族が肉体を捨て、賢者の石と呼ばれた魔石の中に意識を移したのと同じ状態だと考えた。

エルフ族は人間族よりも長寿という伝承が生まれて流布されたのは、エルフ族は見た目が老け込まないだけではなく、肉体ではない特殊な魔石に意識を移すことで、長期間の維持に成功していたからであった。

エルフ族は、複雑な思念の塊である意識もまた、世界に満ちている力であり、肉体の死と同時に世界樹から異界である天界へ返してやらなければ、意識の分の力はこちらに留まり、やがて、こちら側の世界に吸収されるとすれば、天界の力が減っていき、やがて、枯渇するのではないかという考え方を持つようになった。

この世界樹と天界の信仰から、エルフ族には、賢者の石による意識だけの長寿化を禁忌とする習慣が定着していった。
現在、世界樹から生まれてくる子が女児ばかりなのは、遠い過去の天界への力の返還不足の影響とエルフ族では考えられているが、さすがに賢者マキシミリアンにも、その考えが事実なのか確認することはできていない。

世界樹は、天界と呼ばれている異界と、こちら側の世界をつないでいる。
このエルフ族の思想がある。
神聖教団には、女神ラーナが存在する聖域という異界の思想がある。

天界と呼ばれる異界は、聖域と呼ばれる異界と、同じ世界なのではないか。賢者マキシミリアンはそう考えた。
人間族とエルフ族によく似た伝承が残っている。それは、古代エルフ族と古代の人間族が共通の敵に対して協力して戦っていた事情のみではなく、世界の理について、同じ事実を把握したのではないかと思ったからであった。

世界の理を深く知り、それを種族間の壁を越えて、真理に近づくことを望む者。神聖教団はマキシミリアンに賢者という称号を贈った。

世界について深く理解している者は、生きているすべての者を正しく導くことができるという思想は、どんなに危険な思想であるか、教祖ヴァルハザードが異形のものになったことで、神聖教団の大神官たちは理解している。過去の過ちを繰り返すわけにはいかない。

権力者として君臨する意思を放棄している点では、エルフ族、神聖教団、マキシミリアンは共通している。同じ思想を持っているともいえる。

エルフ族の王国へ、ルヒャンの都から、店の建物ごと転居した。
青年セストは、マキシミリアンやセレスティーヌから、毎日いろいろな話を聞いて過ごしていた。セストが今まで疑うことがなかった常識は、壊されていった。

マキシミリアンが王族で公爵であり、セレスティーヌはエルフ族の女王候補の姫君だったことや、聖騎士ミレイユが、この二人の御令嬢だと知った。
平民階級のセストには、常識で考えれば、顔を合わせることも許されない人たちだと思う。


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