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銀彩(ぎんだみ)
【SM 官能小説】

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銀彩(ぎんだみ)-10

 一年後、ふたたびあの修道院を訪れていた。なぜか、黒いマントの男に会いたかった。いや、彼がほんとうにあの貞操帯をわたしの下僕(しもべ)の証(あか)しとして身に纏うことができたのかを確かめたかった。
 出迎えた黒いマントの男と連れ添い、わたしは修道院の中庭に佇んでいた。列柱の傍には燃えるような赤いゼラニウムがまるでゆがんだ欲望を赤裸々に晒すように奇形に咲き乱れていた。
マントで包まれた彼の体は男として取るに足らない憐れなほど貧相な肉体を想像させたが、わたしを見つめる黒い瞳はとても澄んでいた。
彼がわたしにいだく欲望はとても純粋で、わたしがこれまで会った男のようにぎらついた目をしていない。彼の蒼白く扁平な軀(からだ)は、無防備にわたしから与えられる快楽を予感しているように物憂く沈黙している。
男はとても静かな声で言った。わたくしは、すでに肉体としての欲望を失いました。あなたのために身に纏ったあの貞操帯によって。

中庭の石のテーブルの上には、琥珀の液体の入ったワイングラスがふたつ置かれていた。
「乾杯しましょうか。わたくしたちの再会に。そしてわたくしたちの永遠の愛と欲望に」と言って男はわたしにグラスを差し出した。
彼が聖書を語った唇でわたしに愛を囁き、神に対する以上にわたしに愛を捧げるための祈りを捧げてくれそうな気がした。きっと彼はこれまで神以外の愛し方を知らないに違いない。そう思うとわたしはますます彼が欲しくなった。
わたしは手に取ったワインを口にする。仄かな甘い香りが口の中に漂った。咽喉を冷たい液体が流れ、わたしの体を微かに火照らせた。

 不意に男が言った。「あなたは苦しんでおられるのではないでしょうか」
 わたしは男の声に、自分を見透かされたような気がした。
「わたくしは、あなたを癒すことを望んでおります。もし、あなた自身も同じことを望んでいるのでしたら、わたくしはあなたにふさわしい男であると信じています。なぜなら、わたくしはあのときの貞操帯によってあなたへの愛の熟成を知ったのですから。」と男は静かな笑みを浮かべながら言った。

跪いた男は、まるでわたしに捧げられた生贄のようにすべてを投げ出している。上半身を肌脱ぎになった彼の薄い胸肌の色あせた小粒の乳首をわたしは指爪でなぞった。彼の腰に纏った黒い布がはらりと床に落ちた。あのときの貞操帯がまるで薄膜の生きもののように彼の中心のふくらみをすっぽりと覆い、排尿のための小さな鈴口だけを覗かせている。
すでに彼のペニスは小さく萎縮し、欲望のふくらみも輪郭も死に絶えようとし、化石になりつつある。そしてわたしのために美しい銀色の結晶として熟成しようとしていた。それは彼の心と肉体の中に存在する欲望そのものの熟成だった。

彼はとても充たされた顔をしていた。美しく澄んだ、恍惚とした純潔を孕(はら)んだ顔だった。それはわたしがこれまで見たことのない男の顔だった。
わたしの足元に跪いた彼は、足先に両手を添え、接吻した。まるで神に対しての敬虔な愛を裏切るように聖書の文句を囁いた。彼に対する親近感は、わたしに欲望を取り戻させた。男の視線がわたしの足首に巻きつき、ぎゅっと締めつけられる快感は、わたしをとても癒してくれた。

男の弓なりの美しい唇の澄んだ冷たさがわたしの体の隅々まで広がった。彼はわたしの肉体のどんな突起や窪みも見逃すことなく、とても長い時間をかけて貪るように愛撫を続けた。聖書をつぶやき、神だけに祈りを捧げた唇だけで。
どこからとなく忍び込んでくる男の舌がわたしの肌の下の体温をゆらがせ、讃美歌のような旋律を奏でていく。男の華奢な肩が小刻みに揺れ、肋骨の浮いた胸の乳首が微かに色づいている。彼の細身の身体がねじれ、しなやかな彼の唇がわたしの肌に唾液をあますことなくすり込みながら下腹部へと滑っていく。彼の吐く息が湿り気を含み始めた陰毛のあいだを漂い、滲み入っていく。

わたしの中心が彼を感じた。欲望を熟成させた男ほど思慮深く思えることが不思議だった。彼の体から極上のワインの匂いがした。わたしの繁みがかさかさと風にそよいだ音を響かせた。唇が花芯をとらえたとき、わたしの体のあらゆる関節が溺れるように軋み始める。わたしは身をよじり、微かな嗚咽を洩らしながらわずかにのけ反った。目を閉じる。貫いてくるものはないのに、わたしの体は弛緩(しかん)と収斂(しゅうれん)を繰り返し、ただ微熱の広がりだけがわたしの肉体を解き放っていく。まどろむ蜜液が奥ゆかしく、艶めかしく、彩られ、わたしと男の肉体が同化し、銀色に染まっていく。
男がわたしの体の中で囁いたような気がした。わたくしはあなたに封印された永遠の下僕(しもべ)です。わたしはその言葉に酔い、溺れるように深い眠りに陥った………。



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