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ミライサイセイ
【悲恋 恋愛小説】

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ミライサイセイ act.2 『不安定な球体』-4

講義を終え、ミクの着替えを取りに彼女の部屋へと向かった。色々と考えを巡らせる。それは大部分があやのことだ。本当はミクのことを気に掛けるべきなのに。気付けば、あやとの日々を思い出している。
それはきっと、人生で一番安らいだ時間だったから。
恋人がいて。
親友がいて。
同じ幸せの時間空間を共有していた。
確かな、日々―― 鮮やかな記憶。
喩え裏切られたとしても、その時間だけは否定されずに僕の深いところに沈んでいる。
僕は携帯を取り出して、友人に電話を掛けようと決心する。随分と疎遠だった。気は進まないけれど、確かめなければならないことがある。
『あたし、大地のことが好きになったの』
あやの突然の言葉に、僕は反応が出来なかった。校門に待ち構えていたのは、別れ。
卒業式の放課後。
暮れる夕べ。
橙色は、薄く、そらを染めている。
『・・ぇ?』
『だからごめん、もう付き合えない』
いつだってあやは直球だった。一度決めたら必ず実行する性格だった。だからそれは、きっとずっと前から決めていたことなんだと直感する。
『そうか、大地、か』
言いながら、自然と理解してしまう自分が歯痒かった。
大地より優れているものなんて僕には何一つ無い。
だからいつも一緒に行動すれば、僕の粗が目に付いてしまうのだろう。
僕は込み上げてくるものを抑えようと、空を仰いだ。
すっ、と一筋。
確かに星が流れた。
まだ空は明るく、星の瞬きは見えない。それなのに、その一筋の光だけを僕の潤んだ目が捉えた。
まるで涙みたいだな。そう思った。
僕に呼応するように、そらが鳴いた。
『そうか。それじゃあ、いつかまた会おう』
彼女と過ごした三年間は、幻のように美しく。だからそれを汚さないように、僕は応じる。
僕は目を閉じ、一度気持ちを落ち着けた。そして目を開く。
あやの目からは止め処なく涙が流れ落ちている。
『あなたといた時間は、とても幸せだった。信じて。それだけは確かだから。』
何かを押し殺すように、下唇を噛みながら。
彼女は去っていく。
僕は歯車の一つを外され、その場所から動くことが出来ない。
滑らかに廻るはずの僕らの未来は。
彼女の望む道では無かったということ。ただ、それだけだ。
ただ、それだけなのに、僕はそれ以降、大地と一度も話す機会を作らなかった。
失った。
恋人と。
親友と。
ミライと。
けれど心の何処か安心している僕がいる。
幸せは、この身に憑くことを許さない。
周りが笑顔に満ちているのならば、自分など押し殺して生きていこう。

―― 春日大地
友達の欄にありながら、三年以上掛けていない電話。
ひとつ深呼吸をして通話ボタンを押した。
「もしもし」
呆気なく距離をゼロにする声が響く。
「あ、あぁ。僕、あきらだよ」
「あきら!おぉう、久しぶり。どうした急に」
「ん。ちょっと聞きたいことがあって」
「何だ?」
「率直に言わせてもらうけれど、あやとは続いてる?」
「―――」
暫くの沈黙があった。
「どうして?」
「昨日、あやに会ったんだ」
「あやに?それで、彼女、どう見えた?」
どう見えた?
言っている意味が良く分からない。


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