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浮世絵の女
【その他 官能小説】

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その1-3

その浮丸が、或るところから噂を聞いたからである。
「あの浮丸の絵はどれも素晴らしいようだな、皆の衆。
お城の大屏風に描いた虎の絵は大した評判だったり、
景色画などは、まるでそれが目の前にあるようで、
花は匂うように生きているように見えるし、
描いた魚が紙から抜け出して、泳いでいくほどだと言うしね」

「しかし、あれほどの浮丸が何故に春画を描かないのだろうか、
白っぽい絵も良いが、何か味気ないというか、
あれでは、いずれは飽きてしまう、そんなつまらない絵だな」

「あれで本当に浮世絵師と言えるのか、それは女に興味がないのか? 
女を抱いたことが無いのか、いずれにしても艶やかな女を描けないようでは
本当の一流の浮世絵師とは言えないな」

「それに比べ葛飾北斎や、鈴木春信などは風景画はもとより、
男女の絡み絵や、鮮やかで色気のある良い女を描いているではないか」

「浮丸は、本当は女を知らないんじゃないか」
「そうとも、景色や魚や鳥などは描けても、
本物の生きている女を描くのは駄目なのか?」

等と陰でクスクスと笑う者も少なくない。
そんな噂がどこからか入り、
気位が高い浮丸の気持ちを傷つけていた。
浮丸自身も最近、自分で描き始めた女の画を見ながら、
何か物足りなさを感じていた。
故に、自意識の高い彼は、その噂が余計に気になるのである。
 
浮丸は、本当は生身の女を描きたかった。
しかし、あまり露骨な絵を描けば、お上から罰せられるし、
酷いときは絵が描けないどころか、世間を騒がせた罪で島流しにもなる。
……そういう噂も聞いていた。

浮丸の絵は女の絵を描いていても、色気や艶めかしいというところが無く、
どちらかというと、さらりとした上品な女の絵が多かった。

そんなことで、いまいち躊躇していたのだが、
それは建前であり、巷では実際にはそれが緩いものであると知ったとき、
浮丸は俄然として、その意欲に目覚めたのである。

春画は男女の和合の状態を描いた絵だが、
本来の目的以外に、災難よけとして利用もされていた。
武士が戦に行くときに、お守りの為に鎧の下に忍ばせたり、
商人が火事を避ける為に、蔵に安置したりして利用されていた。

浮丸がそういう絵を人知れず描いても、
色気や艶めかしいところがいまいちで、
女の絵は綺麗だけの、どちらかというと味気ない絵だった。

その浮丸はまだ独り者であり、妻を娶ったことがない。
或る時、浮丸はふとあることを思い立った。

「そうだ、本当の女を描くにはまず、生身の女を知らなければならない」
「もっと女を知ろう、そうしなければ本当の女は描けない」
「その上で、粋な女や、男と女が絡んだ本当の情交の絵を描けばいい」



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