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浮世絵の女
【その他 官能小説】

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その1-2

絵の色には、「白」と言っても単調ではない。
雪のような真っ白な冷たい白もあれば、
優しい女のきめ細やかな暖かな白い肌色もある。
更に、百合のような、
少し青みを含んだ生き生きとした白も使われる。

彼は、絵の中に書く女の白粉にもこだわっていた。
粋な女達が使うように、鼻筋に付ける今風で言えばハイライトや、
額はより映える水銀、それ以外には鉛の白粉さえも、
絵の中でも使い分けていた。
それを見ても、
その頃の女達が、如何に自分を白く装うかを競っていたのが分かる。

又或る日、浮丸が描いた鬼毛迫る幽霊の絵が出来上がり、
それを見た懇意にしている物好きな侍が気に入り、
その絵を譲り受けた。

侍は、その夜からうなされ、気が付いて眼が覚めたときには、
侍の頭上に描いた幽霊が佇んでいて、怖ろしい眼で侍を見つめていたという。
情けないことに、
侍は恐怖の為に朝まで気を失っていたらしい。
それが頻繁に起こったので、侍はその絵を寺に納め、
供養したという噂も、まことしやかに広まったこともある。

それ程に絵描きの描いた絵は半端でなく凄かったので、
その名前は多く知られていた。

その男は江戸で当代一流の絵師と言っても良いだろう。
高名な彼のその名前は、(北川浮丸)という浮世絵師である。
だが、その浮丸をしても、この世界でも安閑としていられないのだ。

それは、自分以外にも浮世絵を描く名人が最近増えてきており、
安閑としていられないのである。
彼等の存在が、
絵に拘り、妥協を許さない浮丸の自尊心に火を点けたからである。

彼は、少し前まではお城の家老に呼ばれ、
部屋一面に目立つような、
大きな屏風に虎の絵を描くように依頼されていた。
それは竹の林の間から二匹の大きな虎が夜の月明かりで、
岩の上によじ登り、空に向かって吠えるという、
壮大で迫力満点な絵だった。

浮丸自身その出来映えに満足していた。
その絵を仕上がるのには、
弟子と共に城に出かけ、三年と三月が掛かり、
その制作で精も根も使い果たし、
疲れてはいたがその評判に心から満足をしていた。

城の侍達がその屏風絵を見るに付け、その絵を褒め称えたからである。
「なんと、この二匹の虎の猛々しいことか」
「だだ吠えるだけでなく、どこか威厳さえ憶えるのう」
と中々の評判だった。

その絵の噂を聞いた江戸の庶民達は、
浮丸の高名さを改めて知ることになった。
しかし、日が経つにつれ、今彼が悩み、無性に拘っているのは、
誰にも誇れる浮世絵の女の絵を描くことだった。

浮丸が描く絵は、花鳥風月を得意とするが、
それに少々描き飽きていた頃でもあり、
いなせな女を描くことに意欲を燃やしどん欲になっていた。
それには彼なりの理由があった。




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