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浮世絵の女
【その他 官能小説】

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その1-4

そう思った浮丸は、矢も楯もたまらず、一大決心をして、
当代盛んで、様々な吉原の女達を描こうと思いたった。

勿論、浮丸は吉原を知らないわけではない。
今までは、ただそこで酒を飲んだり、余興を楽しんだりと、
その程度だった。
しかし、今は絵を描く目的で本当の女を知りたい。
そう思うと、彼の気持ちはいたたまれずに、或る決心をした。

今まで描いた絵で、
沢山の金を稼いでいる浮丸は、金には不自由しなかった。
その金で思うままに女を知り、
本当の絵を描いてみたいという思いは、
益々彼の心の中で大きくなっていった。

しかし、自尊心の高い浮丸は、身分も名前も伏して、
誰にも知られず、
その花街へ繰り出したいと思った。

本当の女の身体と心を知り、
それを生々しく、まるで生きているように描いて、
「これぞ本物の春画だ」と巷の者達に言わせたい。
描いて再びあっと世間を言わせたい、
と強く心に思った。

勿論、浮丸ほどの高名な絵描きなら弟子は沢山いた。
彼は出かける決心をし、弟子達を自分の部屋に呼び寄せて言った。

「弟子達や、私は思うところあって、
しばらくどこかでのんびりと絵でも描いてこようと思う。
故に、だれもわしを詮索しないようにな……しかし、いずれ戻ってくる。
その間のことは私の言いつけを守り精進することだ、
いいな、では、お前達、よろしく頼む」

一度こうと言ったらその信念を曲げない主人のことでもあり、
弟子達は彼の言葉を理解した。

「分かりました、お師匠様……出来るだけ早くお帰りをお待ちしています、
そして素晴らしい絵が描けることをお祈りしております」

浮丸は何処へ行くとは誰にも告げず、
連れに一人だけ若い弟子を選んだ。
若者の名を浮太郎といい、
浮丸が、彼の一字を与えるほど可愛がっていた若者である。

浮太郎は、真面目であり熱心で有望な絵描きだった。
「絵を上手くなりたい」という一心で 家出をしてまでして
浮丸の門を叩いたのである。

彼は色白の美男でもあった。
浮丸が、浮太郎を選んだのには理由がある、
それも後で分かってくる。
実は浮丸の住む家と、吉原とはそう遠い場所ではなく、
吉原遊郭は大きな社交場であり、男達の最高の遊び場でもある。

浮丸の浮世絵師としての名前は著名であり、よく知られている、
と言っても、本物の浮丸の顔を知っている者は少なく、
自分さえ名前を明かさなければ、知られることはなかった。
勿論、懇意にしている者に出会わなければの話だが。

浮丸は、いきなり吉原へ足を運ぼうとはせず、
まずは、女郎達が多く住んでいるという街で家を借りた。

そこは一戸建ちであり安くはないが、浮丸にとっては都合が良い。
浮丸ほどの人物なら、直接に遊郭へ出かけ、
そこで本当の女郎を描くことはできるのだが、そうはしなかった。



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