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白衣の天使
【その他 官能小説】

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白衣の天使-7



 新山夕姫には男を惹きつける不思議な魅力があった。三十二歳という年齢の割には熟した色気を放っているし、かと言って派手なものを身に着けるでもなく、瞳の奥に孤独をたたえた美しい女性だった。
「椎名先生、さっきからぜんぜん召し上がりませんね。どこか具合いでも悪いんですか?」
 メインディッシュの魚介のグリルを食べていた新山夕姫が、ナプキンで口を押さえてから上目遣いで訊いてきた。テーブルの上には二人分の料理とワインが並んでいる。
「いえ、大丈夫です。ちょっと緊張しているだけなので」
 椎名は白い歯をのぞかせた。そしてグラスにワインを注ぎ足すと、水のようにがぶがぶと飲み干した。ゆっくり味わう余裕などない。
 まあ、というふうに新山夕姫がおどける仕草をするので、椎名は立て続けにワインを飲み干してみせた。ボトルの中身も残り少なくなり、店のラストオーダーの時間が迫っていた。
「先生、そろそろお返事をいただきたいのですけど」
 三十二歳の淑女は膝の上で両手を組み、哀願する面持ちで見つめてきた。はっきりさせねばと椎名も思っていたが、医師としての理性が彼を思い止まらせていた。
「優柔不断ですみません。返事はもう少し待ってください」
 椎名は律儀に頭を下げた。
「ここでは話しにくいということですね。でしたら場所を変えましょう」
 新山夕姫が伝票に手を伸ばす。それを椎名が制し、「ここは僕が」と席を立つ。残念ながら食後のデザートまでは辿り着けなかったが、椎名の興味はすでに別のことへ向いていた。
 レストランを出てしばらく歩くと、雑居ビルに挟まれた細い路地があった。野良猫が目を光らせていたり、ゴミが放置されていたりと、不衛生極まりない有り様だ。それでも新山夕姫は少しも臆することなく暗闇を突き進み、その背中を椎名も追う。
 裏通りに出た途端、まばゆいネオンサインに出迎えられた。「デートクラブ」「ファッションヘルス」「ピンクサロン」などの下品な横文字が二人の目に飛び込んでくる。
 道行く男女が新山夕姫を振り返る。どこの店で働いている女だろう、と噂しているのかもしれない。明らかに未成年と思しき少女も出歩いていたが、とくに違和感はなかった。
「先生、ここで休みません?」
 新山夕姫は足を止め、横目で椎名をうかがった。そこはホテルの入り口の前だった。
「そうですね、酔い醒ましにはちょうどいいかもしれません」
 椎名の困惑した様子に、新山夕姫が意味深な笑みを浮かべる。そして視線の交わりでふたたび合意を得ると、二人は親密そうに腕を組んでホテルに入った。
 部屋を選んだのは新山夕姫だった。休憩するだけだと念を押しておきながら、彼女は備え付けのアロマオイルを焚き、広いバスルームで感激の声を漏らしたあと、お姫様が眠るようなベッドに腰を下ろして椎名を手招きした。
「あの子、高崎恵麻さんていう看護師の彼女ですけど」
 新山夕姫は酒に酔ったふうに言った。
「高崎さんがどうかしましたか?」
「診療所を辞めたとか」
「ええ、そうです。自分から辞めたいと申し出てきたので、僕は彼女を尊重しました」
「辞めた理由は何だったのでしょう?」
「さあ、それはわかりません」
 椎名は首をひねった。あれ以来、恵麻とは音信不通の状態が続いているからだ。それに、恵麻のことを思い出そうとすると脳内に黒い靄(もや)がかかり、望んだ記憶を取り出すことができないのである。
「まだまだこれからっていう年齢なのに、何だか可哀想……」
 となりで新山夕姫がため息をつく。人を思いやる気持ちが強いんだな、と椎名はそっと新山夕姫の肩を抱いた。やわらかな感触と体温が服を通して伝わってくる。
「新山さん、その話はもうやめましょう。今はあなたとの時間を大切にしたいんです」
「それじゃあ、私を看護師として椎名診療所に迎えていただけるんですね?」
 新山夕姫はとびきりの笑顔で椎名の首に抱きつき、キスをしようとした。その寸前で椎名が彼女の唇に人差し指を立てたので、キスは叶わなかったが。
「僕としては大歓迎です。ただし、採用試験に合格してもらわなければなりません」
「それって、どういう試験なのかしら?」
 新山夕姫が挑発してくる。
 つまり、と言って椎名は新山夕姫のことをベッドの上に押し倒した。ケーブルニットのセーターを押し上げる胸のふくらみに目を見張り、腰から太ももへと伸びるマーメイドラインを視線でなぞると、新山夕姫の胎内に響くようにささやく。
「僕をセックスで満足させること、それが最低条件です」
 椎名は新山夕姫の首筋に顔をうずめ、そこかしこをむさぼった。スパイシーな香水の匂いに酩酊しそうになり、ベッドに沈む新山夕姫の体に椎名も沈んだ。
「待って……」
 椎名の手がブラジャーに達したところで新山夕姫が「おあずけ」のサインを出す。
 シャワーが先、と言って椎名の腕の中から抜け出し、ウインクを投げると、新山夕姫の豊満なシルエットはバスルームの向こうへ溶けて消えた。


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