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安倍川貴菜子の日常
【コメディ 恋愛小説】

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安倍川貴菜子の日常(2)-2

「俺はこれからそこに昼飯を食いに行くけどお前も来るか?」
護はそう言うとすぐそこにあるファーストフード店を指差しながら秀人に尋ねた。
「おごり?」
「バーカ。俺がそんなに裕福じゃないのはお前も知ってるだろ」
「じゃあ、僕がおごるから知ってる店に付き合ってよ」
護にとって今の秀人の提案はとても素晴らしいものだったので否定する要素はどこにもなかった。
だが、秀人はこう見えてもお坊ちゃまなので店を任せるととんでもない高級店に連れて行かれる可能性もあるが故に護は予めどの店に行くのかを聞いた。
「最近なんだけど僕のお気に入りの喫茶店で『ラパン』って喫茶店が近くにあるんだけどそこで良いかな?」
「おおっ、秀人も成長したなぁ。この間みたいに高級料亭に連れて行かれるかと思ってたらまともなチョイスをする様になったか」
秀人のまともな選択に満足した護は彼の頭をわしゃわしゃと撫でてやると秀人は嬉しそうに目を細めされるがままになっていた。
「おーおー、やっぱりお前ってワンコな奴だよなぁ」
護に頭を撫でられている秀人の様子を見ていたエドが面白そうにからかうと秀人は「ふんっ」と不機嫌そうに顔を背け、護の手を掴むと力一杯に引っ張り走り出したのだ。

それから暫くして護と秀人は『ラパン』に着くとお茶と食事をしていた。
護はクラブハウスサンドのセットを頼み、秀人はメイプルバナナのパルフェとアイスカラメルミルクを注文した。
しかし、護はマスターの持ってきた秀人のメニューを一目見てあまりの甘そうな光景に胸焼けを起こしそうになってしまっていた。それとは逆に秀人は瞳を輝かせて嬉しそうに自分の注文したメニューを平らげたのだった。
「しっかし、お前って奴は本当に甘いものが好きな…」
げんなりした表情で嬉しそうな秀人を見る護は食後のコーヒーを喉に流し込んだ。
「うんっ!僕は甘いものだったらいくらでも食べられるよ。それに家で甘いものを食べてるとお母さんがうるさいんだ」
ぷぅっと頬を膨らませ家での不満を漏らす秀人を見ているうちに、秀人と秀人の母との会話の遣り取りが容易に想像できそうだったのが可笑しくなりつい頬を緩ませてしまった。
「えーっ、僕そんなにおかしい事言った?」
「いや、そんな事はないぞ。ただ、お前らしいなぁって思っただけだ」
不服そうな顔で抗議する秀人の機嫌を取りつつ笑う護の傍でエドが余計な一言を言ったのだ。
「護は言葉ではそんな事を言ってるけど本心では『あー、こいつってばホントおこちゃまだよなぁ』って思ってるんだぜっ」
エドは護の隣の席に置いてあるハーフコートの中から顔を出し、ニヤニヤと笑いながら秀人をおちょくると秀人は「なにーっ!!」と席を立ちそうな勢いで身を乗り出してきた。
もはや一触即発といった感じの一人と一匹だったが、タイミング良く可愛らしい制服を着たウエイトレスが護達の席に来て「コーヒーのお代わりは如何ですか?」と尋ねると秀人は渋々と席に座り、護はコーヒーのお代わりをもらう事にしたのだった。
しかし、いつまでたっても空のカップを下げようとしないウエイトレスを護は不審にに思い顔を上げるとそこに見知った顔があった。
ショートカットの髪型に秀人とはまた違った感じの幼く可愛い顔立ち。因みに今の表情は大きな瞳を見開き驚きを隠せない表情だった。
「じ、神野くんっっ!?」
「安倍川、お前ここでバイトしてたのか?」
「ていうか、ここ私のお父さんのお店だから…」
護の問いを恥ずかしそうに答える貴菜子に対してすぐさま反応した奴がいた。それは秀人だった。
「いーなぁ!羨ましいなぁ。僕もこんな美味しいデザート作ってるお店の子供に生まれたかったーっ」
おいおい、それが金持ちの息子が言う科白かと護は思いながら思わず席から立ち上がり一人テンションを上げる秀人の頭を片手で押さえつけ座らせると護は貴菜子に話しかけた。
「それにしても安倍川の家って俺の住んでるマンションの近くだったんだな」
「そうなの?」
「ああ、ちょうどこの窓から見えるけどね。ほら、あそこのバカみたいに背の高いマンションがそうだよ」
護は店の窓から見える自分が住んでるマンションを貴菜子に教える為指差した。


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