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【学園物 恋愛小説】

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想[9]-1

暁寿は「は?」と聞き返す。その声は、怒っているようにも戸惑っているようにも感じられた。
「別れよ…」
さっきよりも強い私の声は、意志が堅いことを意味している。
「私、名屋君が好きなの。だから」
「それでもいいよっ!」
暁寿は私の言葉を遮ると、強く私を抱き締め、肩に顔を埋めた。
「それでもいい…。主里がいれば、オレはそれでいい」
暁寿の腕に力がこもる。
「主里がいなくなったら、オレはどうすればいい?主里がいなくなることはオレにとって、一番辛いことなんだぞ」
耳元で暁寿は独り言のように呟く。また心臓が、キュウッと痛んだ。
「オレのこと、嫌いになったんじゃないなら…オレの傍にいて…。別れるとか言うな…」
私を離さないように抱き締める腕の力は、全く緩もうとしない。
「暁寿…」
このままじゃ、進めない。私たちは強くならなきゃ。流されるだけじゃいけない。自分を守ってばっかじゃいけない…。
「だめだよ。こんな気持ちのまま暁寿と一緒にいたら、暁寿は傷付くよ。それに、私もこのままじゃいれない。私の心の中で名屋君はすごく大きい存在なの…。それに、いつも考えてしまう。名屋君の私に対する想いは一生懸命だった。それが、嬉しかった」
暁寿が首を振った。

「…もう、私は暁寿の気持ちに答えることができない」


暁寿の腕の力が徐々に緩くなっていく。

「暁寿の想いを私は返すことができない」

私の体から暁寿の腕がすっと解けた。

「それなのに一緒にいることは…出来ない。一緒にいる意味がないでしょ?」

私の肩から重みが消えた。暁寿はゆっくり姿勢を正すと、俯いたまま「そうだな」と言った。
「よく分かった。我儘言ってごめんな…」
私の顔を見て力なく笑う暁寿。
「こんなことなら…」
暁寿が私の頬を一回、ゆっくり撫でた。
「格好悪くても主里が他の奴の話するたび目一杯ヤキモチ焼いてれば良かった」
そんな暁寿の瞳から大粒の涙が一筋流れた。悲しみを我慢する訳でもなく、泣きじゃくる訳でもない。それはたった一粒…微笑む暁寿から素直に溢れ、零れたいった。2年間一緒にいて、暁寿が初めて私に見せた涙だった。
「暁寿…ごめんね…」
「言うなよ。その代わり、このオレをフったんだ、絶対幸せになれよな!!」
優しく笑いながら私の頬をつねる。
「…うん」
流れる涙を指で拭いながら私は頷いた。
「はい、もう泣かない!オレもう行くけど、乗ってくか?」
私は首を振り「ありがとう」と言った。
「そうか…。見送りくらい笑顔でしてくれ!」
暁寿は自転車にまたがる。「じゃあな」と手を振りいつもと変わらない笑顔で帰っていった。だから私も、いつもと変わらない笑顔で暁寿を見送った。
「ばいばい」
見えなくなってから小さく呟いてみる。
まだ実感が沸かないけれど、私たちはそれぞれ別の景色を見ていくんだ。


ありがとう、暁寿。


「未宇、今から未宇の家に行くね」
『はぁっ!?なっ、ちょっと待ってよ!んな、いきなり…』
「いろいろ、話しておきたいことがあんの」
『えっ!?部屋片付けるから、ゆっくり来てっ!』
「心配しなくても、着くまで時間掛かるから」
『あっ、そう!?んじゃ、また後でねっ』
虚しい電子音が耳元で鳴る。
言われなくても、ゆっくり行くよ。汚い部屋なのは百も承知だもん…。そんぐらい、分かり合ってるんだから、やっぱり未宇には話しておかないと…。


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