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青い薔薇
【SM 官能小説】

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青い薔薇-7

ぼくは椅子から立ち上がり、革のケースの中から愛用の花鋏(はさみ)を取り出す。細く鋭く尖った刃の先端がいつものように鋭い切れ味を示すように鈍色の麗しい光沢を放っている。光はぼくの肉体の深淵に無意識に潜む危険な性をくすぐる。
ゆっくりと青い薔薇の花びらに鋏の先端を這わせる。いつのまにか青い薔薇は、ぼくの手の中にある。ぼくとあの人の美しい面影を溜めた愛おしい花として。鋏を持つ指先に火照りを感じたぼくは、鋭く尖った鋏の先で花びらをなぞる。ぼくに囚われたあの人のゆがんだ顔が見えてくる。花びらは折り重なる性器の襞となって幻影のようにゆらいでいる。
ぼくは指先に微力を蠢かせ、あの人の息をひそめた花びらを犯す悦びをもって刃の先端を閉じた。冷ややかな指の感触とともに残酷な沈黙が裂かれるように切られた花びらがはらりと床に舞い落ちる。そのときあの人の悩ましい潤んだ嗚咽が聞こえたような気がした。ぼくは幾重にも重なった青い薔薇の周囲の花びらを少しずつ切り裂いていく。一枚、一枚……ゆっくりと時間をかけて。そのとき胸の奥から一筋の雫が滲み出すような旋律が響いてくる。それはヴァイオリンの弦の音となってぼくの中にゆるやかに奏でられる。果実の薄皮がむかれるようにあの人の花芯が開き、薄桃色の蕾を恥じらうように晒していく。

鋏の鋭く尖った刃先は闇の迷宮に誘われるように裂け目を穿っていく。ぼくは目を閉じる。刃先に何か柔らかいものを感じた。まるで自分の肉体の中心に触れたように。それはまぎれもなくぼくの萎縮し、怯えたペニスだった。ぼくが鋏で裂いていたのは青い薔薇の花びらのはずだったのに、その刃はぼく自身のペニスにあてられていた。
一瞬、ぼくの瞳の中に浮かびあがったあの人の美しい幻影に惑わされる。あの人の冷ややかな嘲笑が聞こえてくる。ぼくは流れ出る生あたたかい、半透明のとろりとした精液を感じた。それはぼく自身の去勢があの人によってなされたことを示す残骸だった。ぼくは、あの人によって果てしない空虚の底に沈められ、救いも、赦しもなく、贖(あがな)いの機会も与えられず、永遠の去勢の孤独にさらされる。やがて青い薔薇によってぼくの処刑がはじまる………ぼくはそう思った。それはぼくの中にある純潔の殉教にほかならない。あの人からぼくに与えられたヴァイオリンの旋律は、ぼくのためのレクイエムだったのだ。今、ぼくはそのことを知り、あの人に感謝しながら深い眠りに導かれていく……。


いつのまにぼくはこんなところにやってきだのだろう。じりじりと照りつける灼熱の砂漠の中にある青い薔薇の花園。ぼくは生まれたままの姿で誰かに背中を鞭打たれながら追い立てられるように薔薇園の中に入っていく。青い薔薇にまぶされた自分の肉体が自分のものでないような感覚がぼくを覆っていく。砂漠の中の薔薇の花園は、あの人に強いられた安息と静寂、そして禁欲というぼくとあの人だけの世界の果てだった。

青い薔薇が溶けたような香ばしい匂いがぼくのペニスを包み込み、溶かそうとしている。ぼくに迫ってくるものは、あの人の麗しい乳房であり、火照った太腿のあいだであり、毒を含んだ棘のある肉襞の窪み。あの人の肉体は、ぼくのペニスを弄んだ果てに脈打つペニスの芯にとどめをさすように棘を突き刺し、死に追いやろうとしていた。

赤い砂漠の熱がじわりと肌に伝わってくる。薔薇の花園の中ほどには処刑用の斬首台がそびえている。ぼくはその斬首台の前にひれ伏す。落下する刃の先にある板に開けられた穴は小さく、それは切断されるものが人の首ではなく、穴に挿入された男性器なのだ。色褪せた二本の拘束柱のあいだに不気味にそびえる鈍色の鋼の刃。鋭角な刃はふたつの柱に埋め込まれたレールに沿って落下し、二枚の重ねられた板の細いすきまに入り込み、板穴に挿入されたペニスを残酷に切断する。それを行うのは愛しいあの人なのだ。永遠の愛と去勢への憧れは、これから処刑される罪人のような禁欲的な欲望であり、安堵の場所なのだ……ぼくはそう思った。


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