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レモネードは色褪せない
【ラブコメ 官能小説】

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涼をもとめて-1




 果たして僕らは駅舎を出ると、バスにもタクシーにも乗らず、並んで歩きながら町の中心にある商店街を目指すことにした。実家のほうには「ちょっと寄るところがあるから」と電話で伝えてある。電話に出たのは母だった。
 ところで、ふと思った。彼女──七瀬アイを連れて歩く僕に、すれ違う人すれ違う人が好奇の目を向けてくるのだった。僕の顔に何か付いているのなら話は別だけど、彼女の横にいるのが僕みたいな冴えない男だから気に入らないのだろうか。
「どうしたんですか?」
 七瀬アイが鼻歌を歌う調子で訊いてくる。
「大したことじゃないんだけど、さっきから見られてるような気がして」
「それは、イツキ先輩がこの町の有名人だからじゃないですか」
「有名になったおぼえはないんだけどなあ。まあいいや。そんなことより、君ってほんとうに僕の後輩なの?」
「あ、疑ってるんですね。ひどいなあ、可愛い後輩の顔を忘れちゃうなんて」
 むっと頬をふくらませる七瀬アイの顔を、僕はまじまじと観察した。こんなに上品な顔立ちの女の子がうちの学校にいただろうか。
 高校、中学校、小学校と、おぼつかない記憶を巻き戻してみても彼女と一致する人物に心当たりなどない。
 すると突然、七瀬アイは歩くペースをゆるめると、やがてその場で立ち止まってしまう。もう一歩も動きたくない、という強い意思がその足取りからも読み取れた。
「ごめんごめん、疑ってないよ」
 苦笑いし、僕は謝った。でも彼女の機嫌は直るどころか、どうも様子がおかしいのだ。明らかに顔色が優れないし、麦わら帽子の下にのぞく白いおでこに汗が浮いている。
「大丈夫?」
 僕は自分の荷物を放り投げてから彼女に駆け寄り、両手で肩を抱いた。熱に浮かされたように潤んだ瞳がこちらに向けられる。弱々しく微笑み、体を僕にあずける七瀬アイ。
「ちょっと歩き疲れたみたい……」
「わかった。とにかく日陰で休もう」
「うん……」
 ちょうどいいところにベンチを見つけた僕らは少しだけ休憩することにした。そこは駄菓子屋の店舗の前で、僕が小学生の頃にずいぶんお世話になった思い出の場所でもある。
「何か飲む? 買ってくるよ」
 昭和然とした店構えを振り返りながら僕がたずねると、彼女はかすかに首を横に振り、僕に心配をかけまいと必死に笑顔を繕う。
「飲み物なら、あります……」
 そう言って彼女がバッグから取り出したのは例のラムネだった。まあ確かに、飲み物には違いないのだけど。
「それってぬるくない?」
「あたし、冷たい飲み物とか食べ物が苦手なんです。お腹が冷えちゃうし……」
 女の子ってみんなそうなのかな、と僕は勝手な想像をはたらかせて自分も常温のラムネを飲むことにした。ほんとうは井戸水でキンキンに冷やしたラムネを飲みたかったけど、今回だけは遠慮しておこう。
 示し合わせたわけでもなく、僕らは揃ってラムネのビー玉を押し込むと、そこから溢れ出す炭酸の泡に無邪気な笑い声を上げた。それこそ心のずっと奥のほうに栓をしていた気持ちが溢れ出すように、となりにいる七瀬アイのことを僕は愛おしいと感じ始めていた。



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