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「先生」と呼ばれる人
【女性向け 官能小説】

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「先生」と呼ばれる人-1

「すごいよ。他の女を抱く気がしなくなる。」
彼はそう言う。
長く白い毛のペルシャ猫が彼の膝に飛び上がる。
わたしは頬が熱くなり、消え入りたいほど恥ずかしく
シーツの中で身を丸めた。
「だけど、他の女も抱くよ。わかっているだろう?」

・・・・
ここから悲劇は始まった。

熱湯の中にいるようなたまらない苦しさ。
その気持ちに気づこうともしない彼。
こんな関係やめちゃおう。
今ならまだ引き返せる。中断できる。
悶々とすごすたくさんの時間。

彼からの電話。
「あの締まりがよみがえる」
「はやく君の中に入りたい」
そう、彼はわたしの身体だけがお望み。
こちらの気持ちにはおかまいなし。

すねても泣いても、彼は平気。
あの自信はどこから来るんだろう。
先生と呼ばれる人だから
女は全て、自分の思い通りだと疑いもしない。

夕方、キッチンでとる電話。
「いつ会える?」
この電話に日時を指定したらもう連絡は途切れるとわかっている。
彼はきっと安心して、他の女たちとの交渉に入る。
だから、わたしは身をかわす。
「さあ。いつかなあ。」
野菜スープがふきこぼれそう。

スーパーの広い駐車場。
わたしはここでレジ打ちの仕事をしている。
大根とねぎのはみだした買い物袋を持つわたし。
彼はシルバーに輝く外車でやってきた。
今回のご希望はフェラ。
「飲んでくれるよね。」
メールにはこの文字があった。
「わたし、飲んだことないんです。それに下手かも」
と返事はしたけど、きっと彼は飲ませる気。

絶対飲まないと心に決めて車に乗る。
彼はまっすぐ最短コースでご自分の隠れ家に向かう。
寄り道はしない。
先生と呼ばれる人だから
私と一緒のところを見られるわけには行かない。

「君とはね、恋愛はしないんだよ。友達なんだ。友達は人生を彩ってくれる。」
私に媚びない、おだてない、いつも正直。
嘘をつきたくないからと他の女たちのことを
洗いざらい話す。
昔の結婚のことも。
それが私にはたまらない。
一流の彼にまとわる一流の女たち。
ブランドに身を固めた華やかな女たち。
エステに通い、宝石を選ぶ女たち。
彼女たちの話は聞きたくない。
時々テレビに出るあの料理家は
今でも彼の友だちのひとりだし、
独身の女医さんにバレエの先生。
他の人にはわたしのことも話しているのかしら。
母子家庭のかわいそうな母親だとでも言っているのかしら。

「君のカラダが一番いい」
と繰り返し彼は言う。
それはもう、鍛えていますもの。
貧乏な母子家庭は体が資本。
パートの掛け持ちを自転車でこなす。
甘いものは一切食べない。
それだけのお金があればお米を買う足しにしなくちゃ。
米と野菜、そして卵、月に1度だけ肉を買う。
粗食に耐え、体を動かし今の私がある。
太るはずがない。太れるはずがない。
子供のためにがんばっているんだもん。
別れた夫からは養育費が途絶えがち。
もう2度と夜逃げはしないと心に決めた。
だから、元夫とはよりを戻さない。
養育費の催促は忘れない。これも子供のため。


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