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天神様は恋も占う?
【青春 恋愛小説】

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清爽なキッス-3

 ──ユニフォームへの着替えも完璧。バッグには昼食も入れた。
純一の家から歩いて20秒ほど歩けば、もうそこは小松島家。インターフォンを鳴らすと聞こえてきたのは、隼斗の母である小松島めぐ美【こまつじま・めぐみ】の声だった。
『どちら様でしょうか?』
いつも通りの物腰穏やか、温和なめぐ美さんである。
「純一です」
『あら、純ちゃん。ちょっと待ってね』
程なくして扉が開けられた。顔を出すは、これでもかと言わんばかりに美しい長い黒髪の女性だ。
「おはよう、純ちゃん。もう少ししたら、隼斗準備終わるから」
純一が、はい、と返事をする前に、トントンと階段を下りてくる音が聞こえてきた。ユニフォーム姿で隼斗の登場である。
「よぉ、隼斗」
「はよ……、ふぁ〜ぁ……」
開口一番、大欠伸をぶちかます隼斗。――さっきのやる気はどこへ行ったのか。湧き上がってきた疑問を純一はめぐ美にぶつけてみる。
「めぐ美さん、コイツ今まで寝てたんですか?」
「ううん、寝てはいないわ。どうせ“いつもの”でしょ?」
 母親に話を振られ、そっぽを向く隼斗。少し拗ねたような表情を見せながら。
 そう言われてみると確かに隼斗は休日に練習試合や部活があると、大概眠たそうにしている。口を開けば『俺の貴重な休日が……』と嘆く始末。流石に理性がそれを抑えるのか、俺の前以外ではそのような不満を口にすることは無いのだが。
 ――聞かされるほうの身にもなって頂きたい。
 何れにせよ、隼斗がいつまでもこんな調子では、野球への情熱を取り戻してくれるように野球部に誘った意味が無いではないか――。
「おい」
 気付くと、既に隼斗は靴を履き純一の横に立っていた。
「そろそろ行かないと時間が不味いんじゃないのか?」
 そう言って玄関ドアーに手を掛ける隼斗。腕時計の針は、既に集合時間の20分前を指していた。練習試合が行われる市営球場はここからチャリを飛ばせば大体15分、何とか間に合いそうな時間ではあるが、余裕を持とうとすれば際どい時間である。
「あら、隼斗。アンタにしては珍しいわね」
 少しだけ温和なめぐ美の声に棘が混じってきた。若干“余所行き”の声質から親子のそれに変わってきたようだ。
「何が?」と、隼斗は尋ねる。
「今日の練習にはやる気があるのね、ってことよ。支度だって、いつもだったら純ちゃん待たせるくらいなのに、昨日から準備してたじゃない」と、微笑を浮かべめぐ美は言った。
 言われてみて今までの隼斗を思い返すと、確かに練習試合など部活が在るとき、隼斗は道具の準備を純一が来ても終えていないことが通例だった。
「そう言われればそうかもな。お前、どういう風の吹き回しだ?」
 そう純一が聞くと、
「何だよ、早く準備し終わったらダメなのか?」
隼斗は仏頂面で返してきた。半ば“逆ギレ”の様相だ。
「あのね、純ちゃん。良いこと教えてあげよっか?」
 隼斗の不機嫌ぶりを知ってか知らずか、純一の肩を叩いてめぐ美が話す。
「え、何ですか?」
「昨日の夜にね……」
耳打ちをしようとするめぐ美。だが。
「だぁーっ、五月蝿えよ母さん! たまたま早く準備したぐらい、別に好いだろ!?」
 突如として声を張り上げる隼斗。その頬は少しだけ色付いているように見える。
「はい、はい、“たまたま”、ね。分かったわよ。――ゴメンね純ちゃん、隼斗ったらこういう話になるといっつもこうだから」
 昨日の夜に小松島家で何が発生したか純一の知るところではないので、何か話しの流れにピントが合わない。


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