投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

天神様は恋も占う?
【青春 恋愛小説】

天神様は恋も占う?の最初へ 天神様は恋も占う? 15 天神様は恋も占う? 17 天神様は恋も占う?の最後へ

清爽なキッス-4

――どうにも気になる。
「大丈夫。試合に行ったら多分解ると思うから」
 多分、と言われても、今一つ釈然としない。だが、行けば分かるということなら、と純一は聊か強硬策ながらも自分自身を納得させる。
「おい純一、そろそろ出ないと本当にマズイぞ」
 既に10分が経過してしまっていた。これ以上話し込んでいると本当に遅刻になりそうだ。
「ああ、そうだな。それじゃめぐ美さん、行ってきます」
「行ってきまぁす」
「はい、行ってらっしゃい。気を付けてね」
 優しい声に見送られ、純一は隼斗と共に愛車――自転車だが――に颯爽と飛び乗って小松島家を後にした。
 本日は晴天なり、本日は晴天なり──。
 と、そんなよく通るウグイス嬢の美声は聞こえてこないものの、球場の上は澄んだ青空が広がっている。今日は切雲ひとつ見当たらない、まさに行楽日和となった国民の休日である。
 ──まあ、此処にいる球児たちは行楽なんていう呆けた気分になっているヒマはないのだろうが。

 月雁高校ナインが全員、球場に到着したのは午前10時ジャストのことだった。
 小林監督の口から練習試合の日程と相手が伝えられたあの日、部員の大半のモチベーションが急落したにも関わらず──いや急落したために、と言った方が正しいかもしれない──、監督は試合をレギュラーメンバーだけでなく、純一や隼斗らを含めた2年生も強制全員参加にした。
 風の噂に聞くところ、菊水館高校には“凄まじい”下級生が揃っている、とのこと。
 恐らく監督の考えとしては、『実力のある奴らのプレーを見ればそれに触発されるはず』というものだろうが。
 『余りにも実力差が開きすぎると、かえって2年生のやる気が無くなってしまうのではないか?』
 これは3年生ショートの有河東風観【ありかわ・あゆみ】の弁だ。非常に後輩の面倒見が良く、ポジションの関係から、純一はこの先輩と仲が非常に良いことも付け加えておく。
 しかして、それは的を射ていた。いつもだるそうに参加する隼斗は除外しておくが、それ以外にも何処からどう見ても“やる気無いですオーラ”を出しているのがいる。流石は有河先輩、後輩を見る目が違うということか。
 そんな若干だれた雰囲気で試合前練習を行っていた月雁ナインに緊張が走った。何やらエンジン音に混じってガヤガヤと多勢の賑々しい声が聞こえてきた。
 時刻は10時45分。菊水館高校ナイン、バス――ボディーの横には大きく“菊水館高校野球部”と書かれている――でのご到着である。
 菊水館高校は市街地から幾らか離れた所にあるため、市のほぼ中心部に位置するこの球場へは野球部専用バスでの到着となった。ちなみにこのバス、先のセンバツ出場の際に使用されたものでもある。
 そうこうしている間に菊水館のメンバーが続々と球場に入り始めた。
「よろしくお願いします!」
 と溌剌とした声と共に。試合を始める予定は11時過ぎであるため、どうやら自校グラウンドで練習を終えていたようだった。数人のユニフォームは既に土で汚れていたことからも、容易に考察できた。
 そして、その様子を見て流石の月雁ナインもやっと緊張感が表れたか、少しだけではあるがキビキビとした動きが戻ってきたようだ。
 ──そして、一介の公立高校野球部が、センバツ出場の過去を持つ強豪私立校野球部に勝負を挑むときが、刻一刻と近づいてきた。


「ふぅ〜! 着いたねー!」
「うぅん、遠いのかなって思っていたけど、結構近かったんだね」
 市営バスに揺られることおよそ10分。菊水館高校に遅れること5分。梓と真奈が球場に無事到着した。
「どう? 初めての球場と試合は」
 何故か誇らしげに真奈に問う梓。
「うん、もうメチャクチャ楽しみだよ! だって、今日あんまり眠れなかったんだよ」
「あ、それ私も」
「うそぉ!」
「ホントだってば! 純一の試合見るの久しぶりなんだもん」
 結局似たもの同士な2人である。


天神様は恋も占う?の最初へ 天神様は恋も占う? 15 天神様は恋も占う? 17 天神様は恋も占う?の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前