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ケイの災難
【コメディ 恋愛小説】

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香織と亜里沙の対立-7

香織は近くにあった手頃な照明用のスタンドを手にすると剣道では一般的な中段の構えを取ると亜里沙は不適な笑みを浮かべつつ合気道の半身の姿勢を見せた。
「全く…少し言われた位ですぐに実力行使ですか。精神修養が全然できてませんわね。武道を嗜む者として恥ずかしくないのですか?」
「こんの……言わせておけば…」
香織と亜里沙が間合いを計り合い周囲の緊張感が極限に達しようとした時、奈津子が徐にパンパンと手を叩き二人の間に入ってきた。
「はいはい、それ以上は洒落にならないからここでお開きねぇ」
「奈津子さんっ!?」
「関係ない人は下がっててもらえませんか!」
いきなりの奈津子の乱入に驚く香織と勝負に水を差された事に不満を隠せない亜里沙が視線を奈津子に向けた。
そして亜里沙の言葉に笑顔ながらもとんでもない殺気を漂わせる奈津子は二人の肩に手を置いた。
「香織ちゃん、亜里沙さん、私が笑顔でいるうちにお互い引いてくれないかしら。それとも私が相手しようか?」
二人は自分の肩にただならぬ力が加えられている事と、瞬時にスタジオの空気を凍てつかせた奈津子の殺気に有段者ならではの危険察知能力と同時に本能的な恐怖を感じ素直に奈津子に謝ったのだった。
「わかれば良いのよ。わかれば」
奈津子はにこやかに微笑みそう言うと二人に背を向け撮影開始の合図を告げたのだった。
「くっ…やはり一番の敵はあの人ね」
亜里沙は悔しそうな表情で麻理絵と遊ぶ奈津子の背中を見ながら呟いた。
そんな亜里沙の視線を知ってか知らずか麻理絵とじゃれ合っている奈津子は麻理絵に「麻理絵ちゃん、今度キッズモデルでもやらない?」といった冗談を言うと麻理絵は「うん!」と邪気のない無垢な笑顔で元気良く返事をしていた。

撮影が開始されてからしばらくして、カメラを向けられている香織と亜里沙の表情は笑顔ではあったが二人の間の空気は相変わらず緊迫感が漂ったままであった。
特に香織はいつもなら気心知れたケイとの撮影であれば自然と笑顔になれるのだが、今回の撮影は外見こそケイそのものだが中身は正反対、口を開けば棘だらけの亜里沙との撮影なので違和感をひしひしと感じていていた。
しかし、最初はポーズ一つにもぎこちなさを隠せなかった亜里沙だったが、亜里沙本人に素質があったのか予想以上の速さでぎこちなさは陰を潜め次第に香織との息が合ってきたのだった。これには香織のみならずスタッフのみんなも驚かされた。
「ふーん…なんだかんだ言いながらも結構仕事出来るじゃない」
撮影が終わった途端に不機嫌な表情を見せた香織は亜里沙を見ながらポツリと言った。
「別に大した事はしてないし…それに貴女達の為にした訳でもないわ。ただ、麻理絵のお願いを聞いただけよ」
亜里沙はそう言うとさっさと控え室に戻っていった。
そんな亜里沙の態度にため息を吐いた香織のところに麻理絵がやって来てペコリと頭を下げた。
「亜里沙おねーちゃんがひどい事ばかり言ってごめんなさい。でも、本当はすごく優しいおねーちゃんなんです」
一生懸命に姉の事をフォローする麻理絵を見てるうちに香織はだんだん毒気を抜かれていく様な気分になり、笑顔で麻理絵の頭を撫でながら「うん、うん」と答えながら頷くのだった。
「あら、麻理絵ちゃん今度は香織ちゃんと仲良くなったのね。でも、麻理絵ちゃんの愛想の良さの半分でもいいからお姉ちゃんに分けてあげられないかしら。いや、マジで」
香織達に笑いながら奈津子が言うと、麻理絵は少し困った様な笑顔を見せて「亜里沙おねーちゃん人見知りが激しいですから」とフォローした。


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