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ケイの災難
【コメディ 恋愛小説】

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香織と亜里沙の対立-5

「け、けけ…ケイっ!?なんでケイがここにいるのっ!?」
もはや今までの怒りはどこかへ吹き飛び、香織は俺の顔と病室に入ってきたケイそっくりな女の子の顔を信じられないといった顔で何度も見比べていた。
「あら、あなた以前撮影の時に会ったわよね」
澄ました様な笑顔で訊ねる奈津子に対し、亜里沙は奈津子に対し露骨に嫌な顔をした。
「以前はどうも…。それにしてもどうして貴女がここにいるんですか?」
「そりゃあ圭介とは従姉弟だからねぇ」
奈津子は言いながら圭介の肩をバンバン叩くのだった。
「いてぇよ奈津ねぇ。いい加減にしろよ」
それから程なくして亜里沙と麻理絵が姉妹だと分かり、亜里沙がお礼として持ってきた果物を圭介に渡すとギプスをしている右足を見て心配してくれたのだった。
「いやぁ、でも亜里沙さんってケイそっくりだよねぇ…」
冷静さを取り戻した香織が亜里沙を見てしみじみと呟くと奈津子が珍しく真顔で亜里沙に話しかけた。奈津子の表情は圭介から見ると近年稀に見る真面目なものだった。
「あのね亜里沙さん。真面目な話なんだけど聞いてもらえるかしら」
奈津子のそんな表情に戸惑う亜里沙だったが、少し間を置き微妙な表情ながらも「はい…」と答えた。
「実は次の撮影で亜里沙さんにケイの代打をしてもらいたいの」
今ここで何故そんな話が出るのか不可解に思う亜里沙だったが、奈津子の真面目な顔を見て話を最後まで聞く事にしたのだった。
「今こんな話をするのはね、ここに寝転がってる圭介とケイが同一人物だからなの。しかも、来週に撮影も控えててこの有様だからどうしようかと思ってたんだけど助けてくれないかしら」
正直、亜里沙は困惑していた。それというのも自分そっくりの人気モデル故に少なからずとも嫌悪感を感じていたケイが今目の前に寝ている圭介だというのだからそれもその筈である。
そして話を聞いた亜里沙は目を閉じてため息を一つ吐いた後、表情が少し険しくなり丁寧ながらも棘のある口調で話を断ったのだ。
そのやり取りを俺と香織はハラハラしながら見ていたのだが、麻理絵ちゃんだけは我関せずといった調子でまるで仔猫みたいに俺の横でじゃれついていた。
この空気でここまでマイペースを通せるなんてこの子は大物かもしれない。
圭介がそんな事を思っている間も相変わらず奈津子と亜里沙の間には無言ながらもただならぬ空気が漂っており、この微妙な睨み合いの状態から先に言葉を発したのは奈津子だった。
「はっきり言ってこんな卑怯な手を使うのは私のモットーに反するから嫌なんで先に謝っておくわ。亜里沙さん、ごめんなさいね」
そう言うと奈津子は亜里沙に頭を下げると再び亜里沙の顔を見つめたのだった。
「今回の圭介のケガは貴女の妹さんを助けようとして負ったものなのよね。この事を取引材料に使うのは本当に心苦しいけど私も仕事がかかってるから必死なの。貴女に思うところがあったら一回だけだから私の提案を受けてもらえないかしら…」
奈津ねぇの言葉を聞いた麻理絵ちゃんは今にも泣き出しそうな顔になってしまったが、そんな麻理絵ちゃんに奈津ねぇは「ごめんね…」と辛そうな表情で謝るとベッドの横に腰を掛けて俺に抱きついてる麻理絵ちゃんを抱き寄せ頭を撫でたのだった。
「……ホント、卑怯よ…」
亜里沙は苦々しい顔で奈津子を睨む。
「…私もそう思うわ…。出来れば私もこんな最低な手段なんか使いたくなかったわ……」
奈津子は麻理絵を両手で抱きしめると俯いてしまった。
奈津子にしてみても仕事の為とはいえ心底使いたくなかった手段だったのだろう。圭介達からは今の奈津子の表情を見ることは出来ないが不本意な手段を取った事に対する自責の念は窺い知る事はできた。
その空気の重さからか暫しの沈黙の後、最初に口を開いたのは奈津子に抱きしめられていた麻理絵だった。
「亜里沙おねーちゃん、このおねーさんを助けてあげて…」
「…麻理絵!?」
麻理絵の一言に亜里沙は驚きを隠せないでいたが、麻理絵はそのまま話を続けた。


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