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オーディン
【ファンタジー その他小説】

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オーディン第五話『悩めるオーナー・前編』-1

今日は実に天気がいい、鳥のさえずりが快く感じられる。こんな日はお客様がたくさん来てくれる、はず。
私は店裏にある、自慢の黒い車をみがいてから、店の準備をする事にした。
お前はいつ見ても素敵だ…
「!?」
腕時計を見ると開店前になっていた。考え事をしていると、いつも開店時間に遅れそうになる。
「いかん、いかん早く準備をしなくては、お客様に迷惑がかかる」

私は急いで準備が終え、扉を開けた、いつも通りお客様たちが流れ込んで来る。こんな時は思わずにやついてしまう。

全て順調、のはずだった。
残念な事に一組だけ、店に入れる事ができなかった。
お客様は喜んで歓迎したい。しかし当店は男性はネクタイを、女性はスカートを着用していただくレストラン。そしてなにより、ペットの来店は厳禁。
「申し訳ありません」
私は深々と頭を下げる。できるだけお客様を怒らさないように帰さなければならない。お客様はお客様を呼ぶからだ。
「そうか…、また来る」
ウエスタン的な格好をした男性は、髪を一つに束ねた綺麗な女性と共に、犬を連れて出て行った。不快そうではなかった。
その時、私のやり方は間違っていないと改めて感じた。

次の日も天気が良かった。予定通りお客様が流れ込む。そしていつも通り顔がにやけた。

日が沈みかけた頃、昨日あの客がやって来た。犬はいなかった。
「いらっしゃいませ」
私は頭をさげる時、一瞬だけお客様を見た。
(赤い蝶ネクタイ…)
何年ぶりだろうか、蝶ネクタイをつけたお客様を見たのは。
「昨日は申し訳ありませんでした、今日はごゆっくお楽しみください、こちらへどうぞ」
私は長いテーブルクロスの席に二人を案内した、一番いい席だ。二人はとても喜んで座ってくれた。
注文を聞き、私は厨房にそれを伝え、できあがった料理を運んでいく。
量が妙に多い気はしたが、あの男性がたくさん食べるのだろうと、自分に言い聞かせた。
「お待たせ致しました」
私が運んだ料理を、二人は喜んで料理をほおばる。その笑顔をみて、私は思わずにやついてしまった。
しばらくして、私はおかしな事に気付いた。蝶ネクタイの男性が、テーブルクロスの中に料理を何度も入れているのだ。
(テイクアウト!?)
いやいや、そもそもテイクアウトという事は当店ではやっていない。
これはまずい!!料理のレシピがばれてしまうのでは。そう考えた私は、いてもたってもいられなくなってしまった。
(止めなくては!!)
私は早歩きでそのテーブルに向かった。
「あの、お客様…」
「なにか」
男は平然とした態度で私を見た。
(この男…、ただではすまんぞ!!)
バサッ、私はテーブルクロスを勢いよくめくる。そして後悔した。
(ない…)
そこには何も無かったのだ、料理を入れたパックも、そして当店自慢の料理さえも…
「これは何のつもりですか…」
女性がそう言った。男性もそれに続いた。
「こんな辱めをうけたのは初めてだ」
「申し訳ありません!!」
私は土下座をした。額を床にこすりつけ、誠意を見せる事に専念したのだ。
「あの…、恥ずかしいです、止めていただけませんか」
女性が言った。私は頭を上げ周りを見渡す。お客様たちの視線が、このテーブルに集められてた。
「誠に申し訳ありません!!代金はいりません、帰りに私の部屋へ寄っていっていただけませんか」
男性は軽く頷き、何もなかったように再び料理を口にはこぶ。そして女性も何事もなかったかのように食べはじめた。
(良かった…)
この店の大危機がさっていってくれたのだ。


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