女教師ケイの放課後-9
「お、俺が先だ」
「あ?」
一瞬、ふたりの間を険悪な雰囲気が漂った。獲物の分け前を巡って、普段はおとなしい五月が反抗したのだ。
さほどの時間ではないが、ふたりは睨みあっていた。お互いの思惑と打算が交錯する。
折れたのは板倉だった。彼は冷静に状況を分析した。
ここで仲間割れするのは、いかにもまずい。隙をつかれて、せっかく捕獲した女教師を取り逃がしてしまうおそれもあった。
おそらく、そんなことを考えていたんだと思う。
「後がつかえてんだ。さっさと済ませろよ」
声に若干の苛立ちをみせたものの、老獪な板倉は了解した。
希望が叶った五月は満面の笑みで、ケイに迫った。
「す、すぐにヒイヒイ……よ、よがらせてやっから……」
ケイは現実から目をそらすように顔をそむけたままだ。その表情は心なしか硬い。
「いいねえ、最後までその調子で頼むぜ。その方がこっちも潰しがいがある」
身動きができないケイに対しても板倉は容赦なかった。やつの本性は冷酷なサディストだ。
この凶悪な学友は相手が男でも女でも、痛めつけることに喜びを見出す危険なタイプだった。
その彼が、この極上のショーを瞬時も見逃すまいとしていた僕のほうに寄ってくる。
僕は嫌な予感におそわれた。
板倉はごみでもみるような目つきで顎をしゃくった。
ここから離れろ?見張りをしていろ、ということか。
僕は納得できなかった。たいして役には立っていないけど、こっちだってリスクを背負って参加しているのに。
口まで出かかった不満をなんとか押しとどめた。板倉が目を細めたからだ。
こいつのことだ。五月が終わるまで、僕をいたぶって暇をつぶすくらいのことは平気でやりそうだ。
僕は渋々見物を諦めるしかなかった。
反抗的な態度を咎められる前に背を向けることにした。
そのときだった。あたりをつんざくけたたましい叫び声が聞えてきたのは。
ケイにのしかかっていたはずの五月が転げまわっていた。左目のあたりを押さえている。
そばにいた板倉が唖然として、それを見ていた。