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素描
【SM 官能小説】

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素描-5

考えてみるがいい、女囚の自白を求めるために責めたてるには、鏡張りの部屋で行われる拷問ほど女囚を《おとす》ことができることを。女囚は、どんなに目をそらそうとも、自らの苦痛の姿を見ることができる、全裸に剥かれ、凌辱され、鞭によって刻まれた肌の条痕、無理やり排泄を強要された恥辱、見知らぬ拷問者たちに強要される尽きることのない輪姦……そして、苦痛にさらされる肉体と精神が美しく汚され、変容していく自らの姿をいやでも鏡の中に見なければならない。
まさに、あなたが見ていた夢想は、縛られた燿子が自分の姿を鏡に映し、なおかつ画伯のデッサン紙の上で心と肉体の自白を強要されながら描かれているという、何よりも《画伯の視感という拷問によって浄化される》女囚としての燿子自身の幻覚なのだった。
鏡の部屋で画伯に描かれる燿子のデッサン……それはあなたが彼女に無意識に望み続けた欲望であり、迷妄たる性愛という情念かもしれなかった。

あなたは、怯えたように奥の壁に掲げられた大きな絵に歩み寄る。スポットライトで淡く照らされたその絵が、あなたの足を床に釘付けにし、冷酷に身体を凍らせる。
これは下絵として描かれたものなのか……線だけで描かれた憧憬が真っ白な紙の上に拡がっていた。暗雲たる空に浮かんだ月、その月の灯りに照らされた鬱蒼とした森、蛇のように絡みあっている生い茂った奇怪な植物の茎、透明感のある無機質な線で描かれた憧憬の中に浮かびあがる縛られた全裸の燿子……。

まるで風景の中に亡霊のように横たわっている肉惑的な姿態を露わにしている燿子は、目を半開きにし、のけ反るように顎を突き出し、白い咽喉と首筋が微かに震えているかのようにさえ見えた。彼女の顔は、苦痛に晒され、虚ろでありながら、恍惚とした笑みさえ含み、きわめて《性的な蠱惑》に充ちていた。それは、あなたがこれまで見たこともない燿子が《あなたに与えた》初めての表情に違いなかった。そして、背後の透明な風景を呑み込みように線だけで描かれた燿子の緊縛画は、全体に何か強い磁力のようなものを感じさせた。

浮彫になった線だけの憧憬に、あなたは微かな水の音を聞き、小さな光の粒の連なりを見たような気がした。精緻に描かれた樹木の幹から奇怪に突き出た肉塊から今にも滴りそうな一滴の雫(しずく)……肉塊はあきらかにメタファーとして男根を描いたものだった、おそらく画伯自身の男根として。
そして肉塊の先端から滴ろうとしている雫は、彼の精液なのだ。粘った雫はゆっくりと時間をかけて、規則的にひと粒、ひと粒落ちてくる。滴るしずくの先は、燿子の唇だった。虚ろな目をした彼女の口元が粘った液でしっとり濡れ、睫毛が物憂く煌めいている。それは燿子に対する責苦であり、入念な残酷さを思わせる拷問にほかならなかった。
精液の小さな雫は、燿子の喘ぎを封じるように規則的に、連続して、なおかつ単調に彼女の唇にしたたり、咽喉の奥に流れ、彼女の眠りを永遠に妨げる。精神と肉体をじわじわと責められる彼女の意識は逃れられない苦痛だけに集束していく。
性的不具者として画伯が描いた雫は、燿子に注ぐ淫猥な強い視線であり、視姦に込められた射精への情念だった。そうされながらも縛られた燿子の瞳の中は、遠い色情に焦がれるように薔薇色の快楽に染まっていく。それは画伯の手元にあるデッサン紙に淫蕩に堕ちていく燿子の至福の表情にほかならなかった。



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