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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-5

「……聞こえなかったか? 私は殴れと言ったのだ。それとも、無抵抗の敵は殺せても、無抵抗の女は殴れぬと言うのか?」
俺の拳は、レイチェルの頭の傍らに放たれていた。
古いレンガの壁が微かに揺れる。俺の拳に痛みが走った。
「黙れ」
思わずと言ったように俺はレイチェルの首を掴んでいた。
俺の手のひらが奴の細い首を掴む。少し力を入れれば奴の苦しむ姿を見ることが出来る。
しかし、俺は出来なかった。
「殴らぬのならば放せ、これは命令だ」
首を掴まれていると言うのに、レイチェルの声は不気味なほど穏やかだった。
いや、穏やかと言うよりは冷ややかなその声色。
俺の苛立ちは募るばかりだ。
「……隊長の命令には従うものだ、ガルム・ヴィクセル」
すました顔、表情ひとつ変えやしないこの女――レイチェルはしかし、その口の端に微かな笑みを浮かべた。
この状態で、笑うだと?
くそったれ、抵抗さえしやがらねえ。
こいつが泣いて叫んで許しを請えば、俺は嘲りの気持ちでこの女を見下せるかもしれないと言うのに。
俺は口元を歪めて吐き捨てた。
「女の命令になんか従えるか」
「……女の命令だから、と?」
レイチェルは笑みを消すと、静かに問うた。
俺は言う。
「戦場は男の場だ。いくら隊長と言え、お前みたいな女が出て来るところじゃない……ッ!?」
そう言った俺は、途端に腰を引いてしまった。
手をレイチェルの首から離す。俺は膝の震えを覚える。
「貴様は、度胸のある奴だ」
レイチェルは解放された首に軽く触れながら言って俺を見下ろす。
「女でありながら一隊の長を任せられた私にそのような口を利ける者はそういない」
俺は股間を押さえて女を睨み付けていた。
こいつ……俺のを蹴りやがった……!
言葉に表すことの出来ないこの激痛。目の端に涙さえ浮かべながらの俺を、奴は嘲るように笑う。
「だが、その言い方は少々勘に触る。聞き飽きるほど聞いた『女だから』『女のくせに』と言う言葉は好きではないのだ」
その場にくずおれた俺を見下ろして、レイチェルは吐き捨てる。
「それに、女も便利ではあるぞ。そのような痛みを味わうことはないしな」
(くそったれ……!)
俺は言葉にならない憤りをレイチェルに叩き付け、わなわなと震えた。
しかし奴は相変わらず冷たく俺を見据え、踵を返して去って行く。
そして奴が去り際に見せた、嘲りの笑み――くそったれ、気に食わねえ!
俺は顔を真っ赤にしてようやっと吐き捨てた。
「くそ……った、れ……!!」


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