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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-11

ヴァナ=ジャヤは初めからアインヴァントひとりを狙っていたらしい。
傭兵団の中からヴァナ=ジャヤの内通者が見つかった――勿論第三傭兵団ではない――ことでその事実は明らかになった。
とにもかくにも、これでガルシアの形勢は大きく崩れてしまった。
レイチェルの働きでハウンズ傭兵団は減俸と言う比較的軽い処分に留まることが出来た――その場にいた敵兵を殲滅させたのもまた理由のひとつだが――が、ガルシア国軍の士気は一気に落ちたことだろう。
戦いは再び一旦の休戦と言う形を取ることになるが、その先の戦いは更に厳しいものとなるだろうことが予測出来る。
アインヴァントの国葬は一週間後とのことだった。

「ギルガ騎士長、あまりガルムひとりを責めないで下さい。あの場にいた俺達全員に責任がある筈です」
「違う!」
サバーカの言葉に、俺はそう声を上げていた。
「違う……俺は……」
確かに俺ひとりが責められるのは、納得行くことではない。
しかし、レイチェルは俺にアインヴァントの無事をしっかりと託したのだ。
だが俺は奴を裏切った。

「俺は、ドグが叫んだのを聞いて振り返った。すぐに駆けて身を呈して庇えば助かったのかもしれない。でも、出来なかった」
「いや、しなかったんだ」
俯いて俺はそう言った。レイチェルの顔は見なかった。
「見殺しに、したと言うのか?」
レイチェルの声が震えていた。
サバーカが慌てて首を横に振る。
「そ、そう言う意味ではありません! おい、ガル……」
「そうだ」
俺は答えた。
その答えが本心か否かはともかくとして、俺はそう答えた。
「ガルム……」
呟くサバーカ。天幕の中がざわめく。
「見殺しにしたんだ、俺は」
俺は言って顔を上げた。
そこで、レイチェルの歪んだ顔をようやっと見る。
その表情は、怒りや戸惑いを超えているように感じられた。
しかし、それもすぐに憤怒の一色に変わる。
「失せろ! お前の顔など、見たくない!」
傍らにあった膏薬の入った缶を投げ、レイチェルは叫んだ。
缶は俺のこめかみに当たり、一旦床で跳ねてから転がった。
赤い血が俺の頸部まで伝う。
これは……裏切りの代償か。なら、安いものかもしれない。
俺は痛むこめかみを押さえて無言で踵を返す。
奴や仲間を一瞥もせず、俺はそこから出て行った。


――どこへ行こうと言うのだろう。
陣屋には幾つもの天幕が並んでいた。
天幕と天幕との間を歩きながら考えているうち、足は自然と街の方へ向かっていた。

こんな時にも、いやこんな時だからだろうか。
ベルハイムの酒場は賑やかだった。
丁度ガルシア国軍の陣屋に一番近いこの酒場は、傭兵で溢れていた。
俺はカウンターに座り、安い酒を一杯だけ頼む。
「今日は独りですかい」
店主の問いかけには答えず、俺は出された酒を一気に呷る。
空になったグラスを置き、俺はそこで頷いた。
「まあな」
店主は今度は何も言わず、空のグラスに酒を注いだ。
俺もまた何も言わず、酒を飲む。
(自棄酒なんて、らしくねえな)
自嘲するように俺は心の中で呟いた。
そして、口の端に微かに笑みを浮かべる。自らを嘲るかのように。
(だが、今は飲まなけりゃ――)
「飲まなけりゃ消えねえんだ、苛立ちが」


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