投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

液浸
【SM 官能小説】

液浸の最初へ 液浸 11 液浸 13 液浸の最後へ

液浸-12

淡い光が宝石のように散りばめられた細長い円筒の巨大な標本瓶は、死人の男を全裸で封じ
込めていた。液体の中で亡霊のように浮かんでいる男の白い肌は、無色透明の液体の中で
蒼白い光沢を放ち、剥き出しになった、うつろな白眼は澱んだように濁っている。ガラスの
円筒の上部から注がれる光の中の液体に浮いた男の裸体が艶めかしく揺れ動いている。


茫然として立ちすくんだ彼は言葉を失った……。


わたしが再婚した夫だわ……。カヅエの言葉に彼は思わず彼女の方を振り向く。どうして、
こんなことを。あら、素敵だと思わないかしら、わたしは自分が失いたくない男をこういう
形で保ちたかったのよ……と言ったカヅエは水槽の中の男の裸体に刻んだ自らの記憶をたど
るように見入っている。

わたしの心は、すべてこの水槽の中に閉じ込められているわ、わたしが彼にいだき続けた憎
しみも、嫉妬も……そして、偽りの愛も。

男が入れられた円筒形の水槽が埋め込まれた壁の反対側の壁には、男の水槽よりやや大きめ
の空(から)の水槽が置かれていた。液体のない円形水槽のよく磨かれ厚いガラスは陰鬱な
光沢を放っていた。

これが誰のためのものなのか、あなたにわかるかしら。カヅエは彼の腰にゆっくりと手をま
わした。

彼は言った。この水槽に、あなたの夫のように誰かが入れられる予定があるということでし
ょうか。彼女は含み笑いを頬に湛え、彼の耳に息を吹きかけるように言った。

あなたとわたしが、死後にいっしょに入る水槽だわ……。彼は耳を疑いながらも、薄く苦笑
した。

まだまだ先のお話ですね。それにあなたがきっと先に逝ってしまうのだから、必ずしもぼく
がこの水槽にあなたといっしょに入るとは限らないかもしれない……。

わたしはあなたを離したくないの、夫の目の前であなたとふたりで、全裸で睦みあう姿を
夫に永遠に見せつけていたい、それは夫の裏切り対するわたしの復讐……。わたしは夫の
孤独を冷酷に突き放し、あなたとこの水槽の中で永遠に繋がり、誰からも触れられない、
何も変わらない無為の肉体となり、あなたと抱き合ったままでずっと一緒にいたいのよ。

カヅエは、そのとき初めて彼の胸に顔を埋めた。眼の縁に微かに光るものが見えた。彼は
思わず強く彼女を抱きしめた。カヅエの体温が彼の胸の鼓動を溶かすように吸いとっていく。
彼女の手が彼のズボンのジッパーを引き降ろし、下着の中をまさぐり、彼のものを掌で強く
握り締めた。

だれにもあなたを奪われたくない……。

そう言ったカヅエは彼の足元にゆっくりと跪き、ズボンから剥き出しにされた彼のペニスの
先端に唇をあてた。唇の感触がペニスの表面で凍てつくように戯れ、肉縁をえぐり、唾液で
まぶされる。彼女は彼のものをゆるやかに唇に含んだ。

唇の中の舌はまるで彼女の性器の中の肉襞のように蠢く。彼のペニスは冷え切っているのに
堅くなって頭をもたげ始めていた。カヅエの唇に咥えられた肉幹の芯に、彼はまるで泉が湧
き出てくるような射精の予感を感じた。


そのとき、突然、背後から彼の口を覆うように何かが押しつけられ、強い刺激臭が鼻腔に流
れ込んだ。その瞬間、彼は意識が朦朧となり、身体の力がすっと抜け、崩れるように床に倒
れたのだった……。




液浸の最初へ 液浸 11 液浸 13 液浸の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前