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よだかの星に微笑みを(第二部)
【SF 官能小説】

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葛藤-2

「死ぬかと思った。でも気持ち良かった。弘前君にああして殺されるのなら、本望だな。組織はね、抜けられないの。裏切ると、秘密漏洩を防ぐために消されるよ。改造にお金かかってるし。あたしを消すのは難しいそうだけど。」
顔を洗ったアンカと俺は、向き合ってベッドに座っていた。
「どうして組織に入ったの?」
「友達に斡旋されたの。うち、家庭が複雑だったのね。入ればうちも豊かになるし、普段の暮らしは出来るらしいし。軍隊に入るのとおんなじ感覚。理想を持って志願してくる人もいるよ。そういう人は熱心。あたしは、してる事の中身は結構どうでもいいんだ。」
批判の仕方を俺は知らなかった。こちらの組織も、マリエみたいな若い連中は、訳ありなのに違いない。
「弘前君はどういう立場なの? 答えなくても構わないよ。あの格好、あたしらの敵のでしょ。それに随分強そうだもん。逃げてきたの?」
「試験的に改造したら成功したけど、性格が情けないから務まらないって言われた。組織に関わるような要素はないよ。でもなあ。」
「立場がはっきりしないと辛いよね。あたしなんかとも知り合っちゃったし。二人で新しい組織、作ろうか。」
「両方の組織に狙われながら生きていける自信はないなあ。何とか普通の生活、続けられないかな。」
言いながら思ったのは、俺の普通の生活とは、今の大学生活以外のなにものでもないという事だった。それは、あと一年で終わるだろう。その先、何があるのか。世の中の何を俺は知っているだろうか。
「一緒に死のうか。」
「嫌だよ。死ぬのは選択肢にないな。」
「あたしは、あるよ。」
真顔で、しかし軽く言うアンカに悲しみを俺は感じ取った。
「じゃ、ちょっとお尻出して。」
「うん。また死なせて。」
俺たちは同時に変身した。変身のコツも次第に俺は分かってきていた。

久しぶりに夜、部屋で一人、俺は飲んだ。
ポリアンナを俺はあんな姿にしてしまった。その責任が俺にはある。だが、アンカとのしがらみで、ポリアンナを慰めるのすら上手くいっていない。
高橋先輩達からは、アンカを押さえてほしいと頼まれている。アンカに作戦を邪魔され困っていると言うのだ。これはつまり、組織との実質的な関わりを持つことにほかならない。断ったりしたら、報復があるのだろうか。しかしその前に、この件を人情的に俺は断り難く感じている。
そのアンカは俺に惚れ抜いている。俺のためなら、いつでも組織を裏切っていいとまで言う。そうすると、向こうの組織に狙われて、アンカの身に危険が降りかかる。つまりは俺も危なくなる。
俺とアンカの関係が高橋先輩達に見つかれば、これもまた面倒だ。まず、情報の引き出しを頼まれるに決まっている。次は、やはりアンカ自身が狙われるだろう。
蜘蛛の巣に絡め取られたようだ。
俺はだんだん調子が悪くなってきた。一体、誰のせいだと問いたいが、ポリアンナやアンカとの関係を選んでいるのは俺なのだ。
一切と手を切る方法はあるだろうか。ポリアンナは捨てる。先輩の組織の依頼はみな断る。アンカとは別れる。
アンカがもし怒ったら、女だから、一転、組織ぐるみで攻撃してくるかも分からない。住所も大学も知られているのだ。転学? 転居? すぐ足がつくし、面倒だ。ホームレスになる? そんな度胸はない。親はどうなる?
相談できる相手もいない。
ヨダカの気持ちがなんだかリアルに感じられてきた。そこで思ったのが
「やっぱり卒論はこれかな。もう決めるか。」
悩みの一つが消えた。こんな時にもそんな楽になる一瞬は起こるものかと思いながら、俺は、借りてあったアンカの、汗まみれのレオタードと、ポリアンナに貰ったパンツを、グラス片手にたっぷり嗅いだ。


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