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亜紀
【その他 官能小説】

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亜紀-28

 名古屋駅に着くと出入り口が沢山あってこれでは亜紀と出会えるかどうか分からない。しかし携帯電話の番号があったのを思い出して改札を出てから赤電話に向かって行き、掛けた。繋がったので「もしもし」と言うと健介のすぐ後ろで
 「はいはい、すぐそばに来ておりますよ」
 という亜紀の生の声が聞こえた。振り返ると顔をくしゃくしゃにほころばせて亜紀が立っていた。僕に会ってこんなに嬉しいのだろうかとちょっと感激してしまった。少し離れて品のいい老夫婦が立っていた。祖父母を連れてきたのかと思ったら両親なのだという。子供が出来ずに諦めていたら結婚12年目に出来た子供が亜紀で、しかもその後は出来なかったのだそうだ。とすれば随分我が儘放題に育てたのだろう。それでいつもどこか人を食ったようにふざけた人間になってしまったのだろうか。
 タクシーで家に着くとそこは大きな家だった。間貸ししているというから古ぼけた旅館のような家を想像していたのだが、新しいし、なかなか立派な家である。中に入ると外から見たよりも更に立派である。
 「おい、間借り人は何処にいるんだ?」
 「なんのこと?」
 「間貸ししていると言ってただろう」
 「ああ、私が大学に入ったときはいたんだけど、追い出して改装しちゃったみたい」
 「何?」
 「部屋はあるから大丈夫よ」
 「何処を貸して貰えるんだ?」
 「この部屋よ」
 「この部屋? 冗談じゃ無い。これじゃいくら取られるか分かったもんじゃない」
 「大丈夫よ、私の口利きだから安くしてくれるわ」
 「改めまして、ようこそおいでくださいました。お疲れでしょう。荷物は後から送られてくるんだそうですね」
 「はい。いくらもありませんが」
 「この度はこの子が大変なお世話になりましたそうで」
 「いや、こちらこそお世話になります」
 「我が儘な子ですけど、どうぞ宜しくお願い致します」
 「は、まだ先のことはこれからのことでして・・・」
 「何言ってるの? 先のことはこれからのことに決まってるじゃない」
 「いや、だから・・・」
 「ちょっと変わった人なんだけど驚かないでね」
 「おい」
 「なーに?」
 「ご両親に僕のことどう説明してくれたのかな」
 「ありのまま」
 「ありのままって?」
 「だから事実そのまま」
 「事実ってどの事実だったっけ」
 「いやね。事実にこれだのあれだのある訳ないでしょ。貴方疲れているんだわ。一休みして横になりなさい」
 「そうでしょう。引っ越しは体ばかりでなくて、何かと気疲れするものですからね。私達は引き上げますから2人でゆっくり休んで下さい。まあ先のことはゆっくり決めて下されば結構ですよ」
 「先のこと?」
 「だから、これからのこと」
 「先のことはこれからのことに決まってるじゃないか」
 「あら、私が言ったこと真似してる」
 「おい、婚約者と言ったろう?」
 「そんなこと言わないわ」
 「それじゃなんで我が儘な娘ですけど宜しくお願いしますって言うんだ?」
 「親は謙遜して皆そう言うもんなのよ」
 「しかし間借り人に宜しくお願いしますっていうのは話が逆だろう」
 「貴方が言わないからお父さんが言ったのよ」
 「僕はこちらこそお願いしますと言っただろう」
 「そうね、だからそれでいいじゃない」
 「なんか釈然としないな。何故僕に部屋を貸してやって欲しいのか、どんな説明をしたんだ?」
 「命の恩人だからって」
 「命の恩人は大げさだな」
 「だってそうじゃない」
 「まあ冗談でなく、そうなるかもしれないな」
 「疲れて無い?」
 「別に」
 「それじゃそのバッグを貸して」
 「どうする?」
 「いいから」
 「中身が入っているぞ」
 「分かっているわ」
 「何してる?」
 「整理。あら、私の買って上げた下着穿いたのね。僕はブリーフは穿かんなんて言ってたけど」
 「ああ、それは山に行く時考えたら海水パンツを持っていなかったんで、トランクスの下に穿いたんだ。まだ洗っていないから汚いぞ」


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