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悠子
【その他 官能小説】

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悠子-9

 「それでマスターは平気だった? 何とも無かったの?」
 「ああ、下手な日本語で脅されてね。カッとなって『面白い。日本に来て日本人を脅かすのか。それじゃ警察に通報するから警察がどっちに味方するか見てみようじゃないか』って言ってやったんだ」
 「へえー。案外肝が座ってるのね」
 「そうじゃない。その時は外人が下手くそな日本語で脅すもんだからカッとなったんだ。あれが日本のヤクザだったらそうはいかない。それでも後になって怖くなってね、それから3日くらい雨戸は開けなかったよ。借りてたのが借家で、田舎の1軒屋だから雨戸開けると中が丸見えになっちゃうんだ」
 「それで警察に通報したの?」
 「そんな面倒臭いことはしないよ。何かあったら会社の連中が助けるって言ってくれたし」
 「会社の人は彼女がマスターの家にいることを知っていたの?」
 「ああ勿論知っていたさ。別に隠しもしないし、一緒に土浦まで行ったバングラデシュ人がうちに遊びに来て彼女を見てるから事情を皆に喋っているし。第一、会社の連中が揃って江戸川の花火大会を見に行った時、社長が『連れてこい、連れて来い』って言うもんだから、彼女を連れて一緒に見に行ったりもした」
 「へーえ。娼婦でも偏見なんか無いって言ってたのは本当なのね」
 「だから本当さ」
 「それで就職の話はどうなったの?」
 「結局何処にも使って貰えなくて、しょうが無い戻してくれっていうことになったんだけど、そのころ僕は丁度女房と知り合いになっていてね、そこへ戻ってくるというんだから困ったよ」
 「ナーニ? 僅か5日間の間にもう別の女性と知り合ったの?」
 「違う。違うんだ。それはまた話せば長くなるんだけど、女房とは前から知り合いで、もうちょっとっていう所まで行ってたんだ。でもその先がうまく行かなくなって諦めていたんだ。それが突然上手く行くようになって彼女が僕の家に来ていたんだ」
 「来ていたって、遊びに?」
 「いや、だから同棲」
 「え? 何それ」
 「だから話せば長い物語があるんだよ、そこには」

 その時丁度3人連れのお客が入ってきて光太は救われた。余り自分のことを話すのは好きでないのに、とにかく悠子が聞き出そうとするから喋らされて困っていた。適当に誤魔化すとか、適当に端折ってぼかすとかいうことが出来ない男なのである。

 「ねえ、マスター。昨日の続きなんだけど、そのタイ人が戻ってきて奥さんと鉢合わせになったんでしょう? それでどうなったんですか?」
 「あ? ああ、まあ何とかなった」
 「何とかって?」
 「だから何とか」
 「どういうことになったんですか?」
 「そんなこと聞いてどうするんだ?」
 「どうもしないけど、ただ面白いから聞いているんです」
 「僕はお客じゃないから話し相手になる必要は無いんだよ」
 「別に話し相手になってるんじゃありません。聞きたいから聞いてるんです」
 「まあ上手いこと彼女とは別れることが出来た」
 「そのタイ人と?」
 「ああ」
 「どうやって?」
 「僕が配達を終えて会社に戻ると彼女が会社にいるんだ。驚いたよ。言葉も分からないのに独りで戻って来たんだ」
 「独りでってスカウトマンの友達が連れ帰ったんじゃないの?」
 「それがそうじゃない。たった独りで電車に乗って多分群馬か茨城あたりから帰って来たんだよ」
 「マスターの会社って埼玉県でしたっけ?」
 「そう。埼玉県の三郷というところなんだけど、会社のある場所は駅から遠いし、僕の家からはもっと遠いんだ。江戸川の花火大会に行った時会社に集合してから行ったから、僕の家から会社に行くんなら行けても不思議じゃ無いんだが、会社は僕の家と駅との間にあるんだ。だからどうやってその会社を見つけて来たのか今でも不思議で分からない。人間必死になると何でも出来ちゃうんだな」


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