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「そのチョコを食べ終わる頃には」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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『第3章 そのチョコを食べ終わる頃には』-14

「僕はあれから、時々ふと、あの行為でもし先生を妊娠させていたら、って不安になることがありました」
「そうなんだね……」
「でも、あの翌年に遙生くんが生まれたってことを知ってほっとしました。僕があの時なりふり構わず、そのまま先生を何度も抱いたとしても、妊娠することはなかったわけですしね」
 遼は恥ずかしげに笑った。
 利恵は遼の目を潤んだ瞳で見つめ、静かに言った。
「そうね。あの時は――もう宿ってたんだもんね。遙生が私のお腹に……」
 何も知らない遼は、両手で顎を支えてにこにこ笑っている。
 利恵はふうとため息をついた。
「変なこと訊いてごめんね、秋月くん」
「いえ。でも、沖田さんとの最後の夜は切なくて悲しかったでしょう?」
「そうね……」
「彼が言った通り『天の計らい』だったのかも知れませんね」
 利恵は首を振った。
「実はあれ、そんな偶然じゃなくて、当時の校長先生の遠謀深慮のお陰だったの」
「え? 校長先生?」



 三月下旬の修了式をもって、長く充実した一年が終わった。
 春休みに入ると、転勤が決まった沖田は今までの自分の持ち物を整理したり、段ボールに詰めたり、一日年次有給休暇を取って新年度から新しく勤める学校を訪問したりと慌ただしい日々を送り始めた。
 私は最後の夜に沖田と約束した通り、元通り何もなかったかのように振る舞い、お互いの気持ちを揺さぶるような行動をとらないよう努力した。それでも彼の姿を見る度、胸が締め付けられるように苦しくなって、知らず知らずのうちに涙ぐんでいた。だから私は学校では努めて彼の姿を見ないように行動せざるを得なかった。
 退任式を明くる日に控え、主任沖田の机の上にはもう何も残っていなかった。私はその机を新しい台ふきで拭き終わり、一番上の引き出しをそっと開けてみた。そこにはもう何も入っていなかった。その時、職員室に校長が姿を見せ、私の横に立った。
「篠原先生、ちょっと校長室まで」

 校長室に呼ばれた私は、ドアを入った所で立ちすくんでいたが、校長は穏やかに微笑みながら私を来客用のソファに座らせた。冷ややかな空気でその部屋は満たされていた。遠くから野球部の生徒たちのかけ声やノックの音が聞こえた。
「すまないね、篠原先生、突然呼び出して」
「いえ……」
 私は緊張したように向かいに座った校長に目を向けた。
「私はこの学校を最後に退職するわけだが、去り行く前に先生に確かめておかなければならないことがある」
「はい」
「ここだけの話だが、」
 そう言って校長は二つ折りにされた小さなメモ用紙を無言で私に差し出した。
 私はそれを受け取り、開いて見るなり絶句して青ざめた。
「それは君が書いたメモに間違いないね?」
 私は言葉が出なかった。
「一月、三学期が始まる直前に、私は沖田先生とここで学年末の学校経営について語り合った。話が終わって彼がここを出て行った後、座っていたソファの下にそのメモが落ちていたんだよ」
 私の全身から汗が噴き出していた。そして唇を震わせながらうつむいていた。
「心配しなくてもいい。このことは沖田先生を含めて誰にも言ってない」
「も、申し訳ありません」
 私はやっとの思いで絞り出すような声で言った。
「私の方こそ、スパイ行為まがいのことをしてしまったことを後悔している。そのメモは誰が書いたものかを調査したからね」
「そう……でしたか……」
 目星を付けたのは彼が主任を務める二年生のスタッフ。字のカタチから女性であることは間違いなかった。あとは出席簿や学級日誌に書かれた先生たちの文字と照合」
「本当に申し訳ありません」
 私はいたたまれなくなって思わず立ち上がり、深々と頭を下げた。


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