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「そのチョコを食べ終わる頃には」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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『第3章 そのチョコを食べ終わる頃には』-17

 あと一押し。利恵はずっとそう思っていた。沖田との熱く甘い日々のことはすでに精算できている。ただ、どちらかの気持ちが冷めてしまって別れたわけでもなく、お互いへの想いが大きく膨らみ始めた時に突然に訪れた終焉だったために、どうしても忘れられていない気持ちがほんの僅かだが残っている気がしていた。もちろん今は剛への思いが一番強く、熱い。彼のそのがむしゃらとも思えるほどのリハビリのお陰で、大学時代のようにまた肌を重ね合い、繋がり合って、二人で思い切り上り詰めることができる日も近い。だから余計に利恵自身、その僅かに残った沖田との不義の残滓を、早く消し去りたいと思っていた。
 しかし、この心の中に、もし、この先偶然に沖田と再会した時、自分の気持ちがあの時のように動き出すのではないかという不安がもやもやと広がることがあったのも事実だった。その気持ちを完全に忘れることができれば全てを愛する夫剛にも打ち明けることができるのに、と思い、10年もの間ずっとぐずぐず戸惑っていた。だが、今、目の前にいる警察官に話を聞いてもらい、背中を押してもらったお陰で、時間と共に鮮やかだったその輪郭をぼやけさせ、青い空に溶けて消えていく飛行機雲のように、僅かに残った沖田への想いを自分の心の中から消し去ることができるような気がしてきた。



 年の瀬が迫り、すずかけ町のいろんな店舗ではクリスマスのイルミネーションから新年を迎える準備へとシフトし始めていた。気の早い紳士服の店の前にはすでに門松が立てられている。

「こんばんは」
 夜の八時過ぎ、警察官の制服姿の遼が篠原家を訪ねた。
「あれ、秋月コーチ」玄関のドアを開けた遙生が叫んだ。
 すぐに利恵が顔を出した。「まあ、秋月くん、どうしたの? いきなり」
 遼はバッグをごそごそと漁って小ぶりの箱を取り出した。
「これ、利恵先生にプレゼントです」
「プレゼント? 何、なに?」遙生が色めき立った。
「先生に、って言っただろ。それに遙生にはまだ早いよ」
「母さん、何? それ」
「開けていい?」利恵は頬を赤くした。
 遼はにこにこ笑いながらどうぞ、と言った。
「ブランデー・チョコ……」
 利恵は目を上げた。遼はその目を見つめ返した。
「そのチョコを食べ終わる頃には……」
 そして微笑んだ。
 利恵は少し涙ぐんで微笑みを返し、小さな声でありがとうと言った。
「なんだ」遙生が至極残念そうに言った。
「遙生も食べられないことはないでしょ? チョコなんだし」
 利恵が言うと、遙生はつまらなそうに口を尖らせた。
「そのチョコ、苦手。カラいから」
「遙生はまだまだお子ちゃまだからな」
 遼が言って遙生の頭をぽんぽんと軽く叩いた。そうしてもう一度バッグを漁り、二つの箱を取り出した。
「遙生にもちゃんと持ってきたよ、ほい」
 遼は残念そうな顔をしていた目の前の少年にその一つを手渡した。
「やった! シンチョコのアソートだ! これなら大丈夫。ありがとう、秋月コーチ」
 遙生は一転屈託のない笑顔を弾けさせた。
「こっちは剛さんに」
 遼はアーモンド入りチョコレートを利恵に渡した。
「僕からのお歳暮、ってことで」
 遼は頭を掻いた。
「まあ、みんなに。どうもありがとう、秋月くん。ちょっと上がって行かない?」
「いえ、パトロール中なので」
「そう。じゃあまた今度ゆっくり食事でも」
「そうですね。うちと海晴姉も一緒に忘年会でもやりますか」
「いいわね。じゃあうちで計画しとくね」
「それはありがたい。よろしくお願いします」
「やった! 秋月コーチと忘年会だ!」遙生ははしゃいだ。
 遼はにこにこ笑いながら遙生の頭を乱暴に撫でた。
「では、僕はこれで。失礼します」
 遼は背筋を伸ばして敬礼をし、通りを歩き去って行った。
「秋月コーチ、いい人だよね。明るくて優しくてかっこいいし」
 遙生が言った。
「母さんもそう思うわ」
 利恵は遙生をリビングに追いやり、遼にもらったブランデー・チョコの箱を見つめた。
「このチョコを食べ終わる頃には……か。ほんとに優しいいい人」
 そう独り言を言った利恵は家の奥に向かって大声で言った。「ちゃんと手を洗いなさいよ、遙生、もう夕飯だからね」
「わかってるー」
 すぐに元気な遙生の声が返ってきた。
「秋月くんの声にそっくりね」
 利恵はくすくす笑いながら家族の待つリビングに足を向けた。

――終わり


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