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「そのチョコを食べ終わる頃には」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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『第2章 その秘密の出来事は』-18



 受話器の向こうで剛が言った。
「というわけで、剣持先生から遼くんの名前が出てきたんだ」
「なるほどね。弟の遼は、その時利恵さんと親しくなってたのね」
「人を勝手に疑うもんじゃないとは思うけど……その剣持という先生が一番怪しいと俺は思ってるんだ」
「同じ実習生だったから?」
「そう。授業以外はずっと同じ部屋にいたわけだろ? もう一人の実習生は化学の教師に使われていて、控え室にはほとんどいなかったって言うし」
「まあ、そう考えれば剛兄が怪しいと思うのも無理はないけど……」
「どんな小さなことでも構わない、遼くんがその時学校で利恵の行動について気づいたことがあれば教えてもらいたい。特にその剣持という実習生との関係について」
「もうずいぶん時間は経っているけど……剛兄が直に弟に訊いてみる?」
「いや、遼くんとは長いこと会ってないし……。まずは海晴ちゃんから軽く、さりげなく訊いてもらえれば。何か気がかりな情報が得られたら俺が直接訊くかも知れないが……」

 ――いくら親しくしてもらっていたとしても……。海晴は考えた。高校に通っていた一生徒が、教育実習生の様子をそれほど細かく知っているわけはあるまい。仮に剛の今の奥さんがその剣持という実習生と過ちを犯したなどということがあったとしても、当時生徒だった弟にわかるはずはないだろう。
「難しい……と思うよ」海晴は残念そうに言った。
「どんな小さなことでもいいんだ」
 電話の向こうで剛はすがるような口調で言った。
「もちろんその相手が誰かを知ったところで、俺は妻を手放そうとは思わない。今でも大切な人だから。それにこんな身体になってしまった俺と結婚してくれた女性を今さら裏切り者と罵ることなんてできるわけない」
 海晴の胸は締め付けられるように痛んだ。
「ただ、息子の出自は知っておきたい。それを知ってどうするわけでもないし、今さら妻や子供に対する態度が変わるわけでもないけど……」
 剛の気持ちは痛いほどわかる。息苦しくなってきた自分に狼狽しながら、海晴は絞り出すような声で言った。
「わかった……」
 弟の遼に聞いたところで、剛にとって欲しい情報は何も得られないに違いない。それでも電話の向こうの男性が抱いている苦しみを僅かでも和らげてやりたいと海晴は思った。
「一応……訊いてみるよ。遼に」
「ありがとう。感謝するよ」
 剛は泣きそうな声になっていた。
「それからどうか、このことは海晴ちゃんと俺との内密の話として……」
「わかってます。安心して」
「本当にごめん。いきなり電話してこんなややこしいお願いをしてしまって」
「ううん、大丈夫。じゃあ、何か分かったらこちらからこっそり電話する」
「ありがとう。ありがとう」
「奥様を大切になさって下さいね」
「もちろん。俺は今でも息子も利恵も愛している」
 ぷつっ、電話が切られた。
「(利恵……『リエ』?)」
 海晴はその時、出し抜けに昔の出来事を思い出した。
「(リエという名前、確か遼が……)」

 ――自分が22の時、そう、勢いで弟、遼と肉体関係を結んでしまったあの夜……。



 弟の遼を半ば誘惑して初めて繋がり合った晩だけでなく、その次の日と次の日も海晴と遼はその身体を重ね合い熱い時間を共有してしまった。当時の遼の様子が、それまで姉である自分も見たことのないような、一種投げやりな態度で、それでいて哀しいような、苦しいような、すがるような、とにかく何か放っておけないような表情をしていたからだ。
 その三日目の夜のことだった。
 思いの外激しい求め合いが終わり、弟の遼はベッドの上で枕を抱きしめて眠っていた。使用済みのコンドームを包んだティッシュをゴミ箱に放り込んで、海晴はベッドに戻った。
「こいつ、可愛い顔して眠っちゃって。いい気なもんね」
 海晴はショーツを穿き直し、弟の寝顔を見下ろしてくすっと笑い、その横に身体を横たえた。
「小学校まではこうして一緒に寝てたな」
 はあ、と大きなため息をついた時、遼がかすかな声で寝言を言った。
「リエ……先生」
「(え?)」
 海晴はしばらく息を潜めて眠っている遼の様子を見ていた。彼が寝返りを打ちながら、さっきよりも大きなはっきりした声でまた寝言を言った。
「リエ先生」
 そして抱えていた枕をぎゅっと抱きしめ、顔を埋めた。
 遼はそのまま、閉じた目に涙を滲ませ、ひどく切ない顔をして寝息を立てていた。


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