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紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

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紅館の花達〜蒼猫花〜-9

昼過ぎ、ゼロは火竜館でスーを見ていた。
スーは毎日ここで石像の掃除をしているのだ。
だが、これは言いつけられた仕事ではない。 この石像はウェザが大切にしているものだから、スーは自主的に掃除をしている。
『意外と健気な一面があるんだよねぇ………』
物陰からそっとスーの掃除を見ているゼロ。
一生懸命に掃除をしているスー。
雑巾でしっかりと磨いているスーの目はとても真剣………
少しでも紅様の役に立ちたいのだろう。
この事で誉められなくても良い。 ただこの石像を見て微笑んで欲しいと。
そんなスーを見てゼロはとても悲しいやら羨ましいやら。 よく分からない複雑な気持ちになってしまった。

一通り石像の掃除を終えたスーは雑巾を置き、じっと石像を眺め始めた。
髪が長いエルフの石像。
いつからここにあるのか? このエルフは誰なのか? 一切解っていない。
しかし、ウェザはこの石像を大切にしているのだ。
『さて、片付けよっかな。』
雑巾を拾い、バケツを持ち上げた。
ところが、スーはバケツから溢れた水溜まりに足を取られた。
『わっ! きゃぁぁ!!』
ツルンと足を滑らせて後ろに倒れる。 だが、そこには石像があった。
石像はスーもろとも床に倒れて、ガツンとぶつかる音とともに首の部分が折れてしまった。
『テテテ………あっ、あぁ!?』
壊れた石像を見てスーが固まる。
『ど、どうしよ………私………どうしよう………』
石像の首を持って今にも泣きそうなスー。
そこに、物音を聞いてメイド達が集まってきてしまった。
口々に囁きあっているメイド達を掻き分けてアルネが歩いてきた。
『スー………これは貴方がやったの?』
アルネが、床に座り込んでいるスーの前に立った。
表情にはありありと怒りが感じられる。
『はい………申し訳ありません………』
言い訳も何もせずに謝るスーを睨みつけているアルネ。
『処罰は紅様に決めてもらいます。 ついてきなさい。』
言われるままにアルネについて行くスーを見て、ゼロは駆け出した。
『違うよ! アルネちゃん!
スーちゃんはわざとやったんじゃ無いもん!』
スーとアルネの間に割込んで言う。
『………わざとじゃなくても、壊したのは事実よ。
スー、いらっしゃい。』
再び歩き出した二人だったがすぐに止まった。
ウェザもまた、音を聴いてやって来たのだ。
『紅様、スーザンが像を壊しました。』
『………あぁ、わかっているよ。』
ウェザは壊れた石像に近付いてそっと首を抱き上げる。
『申し訳ございません………紅様………』
『………いや、いいよ。 掃除、してくれていたんだね?』
側に置いてあるバケツと雑巾に目をやる。
『しかし紅様………』
『大丈夫、アルネ。』
ウェザはそっとアルネに近寄り、その肩を叩く。
『彼女が死んだわけじゃないさ。 石像だもの。 直せば良いんだよ。』
良く見るとアルネもまた今にも泣きそうな表情をしていて、肩に乗せられたウェザの手を握り締めた。
『わかりました、すぐに職人を呼びます。』
アルネは手を離すと玄関から出ていった。
残ったウェザは座り込んでいるスーの頭を撫でた。
『毎日綺麗に掃除されていたから、誰かなと思っていたんだよ。
ありがとう、スー。』
『………紅様…………ごめんなさい………』
頭を撫でられながらスーはとうとう泣き出してしまった。
『泣かない泣かない。 さぁ、元気を出しなさい。』
スーは言われるまま立ち上がり涙を拭うと、ウェザに一礼して水竜館の方へ駆けて行った。
『………さぁ、皆も仕事に戻りなさい。』
ウェザに言われて、集まっていたメイド達も各々の仕事場に戻っていくとウェザも白竜館の方へ帰っていった。


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