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【推理 推理小説】

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Story〜夕焼けと2人の高校生〜-6

「………。」
「………。」
「……里紅。どこまで分かった?」
黄依の声が暗闇の様な沈黙を破る。
「………。」
しかし、里紅は目を瞑ったまま何も答えない。態と答えないのではなく、黄依の声が聞こえないのだ。里紅の頭の中では、<彼>との会話が行われている。

『 』

聞こえない。里紅は思う。

『…お まだ か のか? 』

何を言おうとしているのかは知っている。だが、聞こえない。聞こえなければならない。

『…お前はまだ分からないのか?』

里紅はゆっくりと瞼を開く。視界に黄依を捉えた。
「またアイツ?」
黄依は<彼>のことをアイツと呼ぶ。里紅は軽く頷いた。
「それで?里紅は分かったの?」
「いや、まだだ。」
<彼>はいつも里紅より先に気付き、里紅より先に考える。だがそれは関係のない事だ。結果的に二人とも分かるのだから。
昔は誰にでも、里紅でいう<彼>の様な存在は在ったのだ。だが、殆んどの人は幼い頃に<彼>を心の奥底へと閉じ込めてしまう。そしてその存在を忘れたまま人生を終えるのである。里紅は偶々<彼>を忘れなかった。ただそれだけの事である。
「……あぁ、そうか……」 里紅は目を瞑る。
「分かったの?」
「あぁ。」
里紅は<彼>より数分後に気付く。数時間後でもないし、数秒後でもない。いつも同じ間隔だ。
「大丈夫?里紅。」
黄依は眉をひそめて、里紅の目を見つめる。
「大丈夫大丈夫。ただちょっとびっくりしただけ。」 おどけた表情を見せる里紅に安心したのか、黄依は少しだけ微笑んだ。
「そ。なら良いんだけど。」
「変な奴だな。」
「まともな奴なんてこの世にいる?」
黄依は無表情になる。
「……自分の事を変だと思ってる奴が、一番まともなんじゃない?」
すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干す里紅。
「それじゃあ私はまともな奴?」
「そうかもね。」
「………。」
「………。」
沈黙。
二人は何も言わず店を出た。


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