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【推理 推理小説】

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4th_Story〜手紙と2筋の涙〜-11

8.日々

 時は現代。場所は稲荷家。3年前の事件を今更になって思い出したのは、否、忘れていたのは恐らく、目の前で親友を失った事へのショックが原因であろう。
 3年前に別れたはずの、行方不明になっていた友人からの、無事を告げる手紙。それを手にした里紅と黄依は、どうして今まで忘れていたのか、その理由をも思い出す。
 最初に口を開いたのは黄依だった。その目にはうっすらと涙。
「蒼……。駄目だね、蒼の事、忘れてたなんて」
 そんな黄依を見て、里紅はまた、あの悔しい気持ちを思い出す。何も出来なかった自分。あの後、しばらく経っても戻ってこない2人を心配して屋上に行ったが、その時、既に全てが終わっていた。しかし、あの場に自分が居たとして、何が出来ただろうか。何か、出来ただろうか。
「ああ。俺も忘れてた」
 だけど、それでも。たとえ結果論だとしても。あの、親友と過ごした時間が、また戻ってくるのなら。この感情を糧にして、教訓にして、もう何も失ったりはしないと、そう願うのである。
「駄目じゃん、忘れちゃあ」
「え? あれ?」
 黄依も忘れたって言ってたじゃん! 折角の感動の場面が台無しだよ!
「さあて、昼ご飯まで寝ようかな」
 はぐらかされた。ふて腐れる里紅を笑う黄依。その笑顔につられて、里紅の顔にも笑みが浮かぶ。
「なに笑ってんの?」
「何でもないよ。だから蹴るなって、痛いって」
 またもや炬燵の中での攻防戦。
「まあいいや。じゃ、昼ご飯頼んだよ」
 そう言って、黄依は猫よろしく炬燵の中で丸まって寝てしまった。さっきの2度寝の続きをするつもりか、このオンナ。
「ああ。って、昼飯作るの俺かよ」
 しかし、朝食を作ったのは黄依なのだから、それも当然か。
「ってか、手紙は読まないの?」
 目の前の蒼からの手紙。白い封筒に、白い便箋。他には、何かのチケットらしきものが2枚。その手紙を読んで、蒼も相変わらずだなと、里紅は呟いた。
 炬燵の温もりを感じながら、甘い蜜柑を食べる。その向かいには、ちょっと無愛想で凶暴だけど、本当は優しくて可愛い女の子が1人。
 こういう日常も、悪くない。
 そんな事を思いながら、新年の始まり、元日のお昼時を過ごす、里紅なのであった。


9.手紙

拝啓
 新春の候、寒さも日毎に増してゆきます今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。突然この様なお手紙を送らせて頂いた事、お詫び申し上げます。この手紙を受け取り、さぞ驚かれた事でしょう。あれから、3年もの月日が流れてしまいました。本来ならば、もっと早くに連絡すべきなのですが、様々な事情により、手紙を出すのが遅れてしまいました。申し訳ありません。
 さて、堅苦しいのはここまで。
 黄依ちゃん。私の愛しい黄依ちゃん。3年前はあんな別れ方をした事、謝るね。泣かせちゃったね。私の黄依ちゃんを泣かせたのは誰だ! それはお前だ! なんちゃって。もう今になっては逆に怒ってるかな? 無理も無いよね。ごめんね。
 里紅には特に言う事は無いんだけど、一応謝るよ。ごめん。

 あれから何をしていたのか。その事は話せません。本当は話しても良いんだけど、私の心の整理がまだつかなくて。秘密は女を女にするって言うしね。
 でもこれだけは言える。離れていても、ずっと黄依ちゃん(と里紅)の事を忘れた事は無いよ。

 さて、本題に入ります。手紙を送ったのは、あの時のお詫びをしたくて。黄依ちゃんには、泣かせちゃったのと、あんな所を見せちゃった事のお詫び。里紅には無し。けっ。
 それで、旅行に招待しようかなって。南にある、城那島って言う所に3泊4日。チケットはこの手紙と一緒に封筒の中に入ってるよ。入れたはずだよ。……入ってるよね?
 それでは、そこでお会いできる事を、楽しみに待っています。           敬具
                          海晴蒼
 稲荷黄依 様
 朝月里紅 様


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