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マリア
【その他 官能小説】

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マリア-2

 2時に来る予定になっていた水田という客が約束より30分早く1時半に来て、祐司と名刺を交換した。祐司は一応登記簿上は代表取締役になっているから、名刺の肩書きは社長である。倉田は表に名前が出ることを極端に嫌うので役員にはなっていないが、祐司は勿論のこと、大抵の人間に会長と呼ばせている。何の用件で水田と会うのかは知らないが、倉田も水田の訪問に合わせて事務所に来ることになっていた。しかし大体予定よりも30分くらいは遅れてくるのが普通だから、祐司はこれから1時間この水田の相手をしなければならない。
 交換した名刺を見ると東京都特殊浴場組合の理事長とある。つまりソープランドのことだと思ったが、もし誤解していると大変なことになるので一応確かめてみた。
 「あのー。特殊浴場組合と申しますと・・・」
 「ソープランドですね。昔はトルコ風呂と申しておりましたが」
 「はあ、そうですか」
 「社長さんは御利用されたことはありませんか?」

 祐司は肩書きだけの社長で実態は単なる月給取りだから社長という意識は無い。かつての人生でも社長になったことは無いし、最初の内社長と呼ばれているのが自分のことだとはなかなか気が付かなかったがこの頃ではそう呼ばれることに慣れている。
 しかしそれにしてもこの水田という男は非常に変わっている。年の頃は50代だと思うが、でっぷりと太って顔もあばただらけのギョロ眼、全体に凄みがあって半端なヤクザなど足下にも及ばないという雰囲気を漂わせている。それなのに声は女のように高くて細い。しかも喋る言葉が年下の祐司を相手にしているというのに異常に丁寧である。眼を瞑って聞いていたらまるでNHKの女性アナウンサーと喋っているように錯覚するのでは無いかと思ったが、眼を開ければ凄みの利いた貫禄十分のガマ蛙みたいな容姿なのである。これは倉田に何事か大事な依頼の向きがあって来たのだなと思ったが、どうもそうでも無いらしい。

 「はあ。若い頃に1度行ったことはありますけど、それ以来もう20年以上ご無沙汰しています」
 「そうですか。私どもとしましてはお若い方からお年を召した方まで幅広くご利用頂けるような健全なサービス産業を目指しているのでございますが、なにぶん近頃のエイズ騒動が響いておりまして」
 「あ、エイズですか。あれはやはり打撃になっていますか」
 「はい。私どもの所では必ずスキンの着用をお願いしておりますからエイズとは関係無いんでございますが、世間はもうセックス恐怖症になってしまったみたいな感じですね」
 「そうですか。まあ、それに近頃はピンクサロンとか何だとかいろいろな風俗産業が増えておりますよね」
 「そうなんです。ああした所は私どもの所とは違いまして水と石鹸をふんだんに使って綺麗にすることは出来ませんで、せいぜいがおしぼりを使って拭くくらいのものですよね。ところがそのおしぼりが又汚いと来ているのでございます。ですから私どもに言わせると、ああした汚い環境の所で大事な部分を露出するお客様の心理が分からないのですが、当局もどうしてああいったものを放置しているのか、非常に義憤を感じておるのでございます」
 「はあ・・・そうですね」
 「はい。社長さんはそういった場所を御利用されているとは思いませんが、もしそういった場所を御利用される場合の為にこれを進呈させて頂きます」
 「これは何ですか?」
 「私どもの組合に入っているソープランド全店で使えるサービス券でございます。都内のソープランドは全部組合に入っておりますから、都内なら何処でも使える訳ですね」
 「有り難うございます。これを使うと安くして貰えるのですか」
 「はい。サービス料は安くならないのですが、入浴料が無料になります」
 「利用したのはもう昔のことで、ソープランドのシステムを忘れてしまったのですが、サービス料と入浴料の2本立てになっているのですか?」
 「はいそうですね。入浴料は店の収入で、サービス料はソープ嬢の収入になるのです。尤も店はその他にソープ嬢からタオル代とか化粧代などを取ります」


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