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マリア
【その他 官能小説】

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マリア-1

 高木祐司は今でこそブローカーの手先になっているが元はれっきとした弁護士である。金を使い込んで女に貢ぎ、刑務所で4年間過ごして出てきた所を刑務所の中で知り合った男に声を掛けられてあるブローカーに紹介された。
 ブローカーというのは倉田宗一という老人で、自分ではフィクサーと称している。金になりそうな話には何でも首を突っ込み、いつの間にか自分の役どころをこしらえてしまい、事が成ると儲けの分配に預かるのである。祐司は女にはだらしが無いけれども至って山っ気の無い人間なので、倉田がいくら儲けようと自分には関係無い、しかし儲けが無くとも生活費はかかるのだから月給制にして定額を貰うので無ければ厭だと主張して、結局定額の給料を貰って働いている。
 そういう所が却って山っ気ばかりの人間を相手にしている倉田老人に気に入られたのかも知れないと思っていたがそうでは無かった。倉田は初めから自分の雇い人であれ誰であれ、人と組んで仕事をするという気はなく、自分の儲けを誰かと分配するつもりなど無かったのである。そんな訳だから、祐司は働いていると言っても9時から6時まで事務所に詰めているだけで殆ど仕事らしい仕事が無い。
 事務所は、倉田が祐司を雇い入れるのと同時に五反田の駅前のビルに新しく借りたものである。普通はブローカーと言うと自分の事務所など持っていないので、自分はそういう根無し草みたいなブローカーとは違うという意味で倉田老人は事務所と祐司に金を掛けているのであり、事務所らしい事務所があって、そこに一応の教養があり育ちが良さそうに見える人間がいるという見せかけが重要らしい。それで、祐司はいつもきちんとスーツを着てネクタイを締めている。
 祐司も倉田も事務所で仕事をするなどということは殆ど無いが、訪れる客は結構ある。倉田が事務所に遊びに来てくれと事ある毎に誰にでも吹聴するからで、事務所も祐司も一種の見せ金みたいな役割を果たしているのである。その癖倉田自身は事務所には余り顔を見せない。最初の内こそ毎日1回は昼頃か夕方にちょこっと顔を出していたが、その内には電話だけで顔を見せるのは週に2〜3回になってしまった。倉田は『俺の右腕が事務所にいるからいつでも寄って茶でも飲んでいってくれ』と言うのだが、事務所には祐司以外は誰もいないので、祐司は客の話し相手であると同時にお茶出しの給仕でもある。客が来た時に何も仕事していないように見えてはいけないので、デスクにはいつも書類を拡げていなければならない。この、仕事が無いのに仕事をしているフリをするというのが結構大変で苦労する。
 そこで祐司はコンピューターを使って何か仕事を作ろうと思った。と言っても金になる仕事を作ろうというのでは無い。人に見られても恥ずかしくなくて、自分が興味をもちながら時間をつぶせる仕事を作るという意味である。コンピューターは以前から趣味としていたので、事務所には必要だと主張し、倉田老人も今時はそれくらい無いと人に馬鹿にされると思ったのか、気前よく買ってくれたのである。と言っても今はコンピューターなど10万円も出せば買える。ブローカーはどうしても金高の張る土地をターゲットにすることが多いので、土地の時価を簡単に算出するプログラムを作ろうと思った。土地の地目その他沢山の項目を設けて該当する欄にチェックを入れたり、面積や固定資産税評価額などをインプットしたりすると、土地の時価が計算されるプログラムを作ろうというのである。
 土地の価格というのは非常に多くの事柄に左右される。地形・地目・環境・日照・通風・眺望・交通の便などは勿論のこと、例えばそこで火事が出たことがあるとか自殺した者がいるとかという事実も価格に影響するし、将来大規模な開発が近所で計画されているらしいという不確かな噂も価格に影響する。それらをなるべく多くなるべく正確に反映させたプログラムを組もうというのだから、これは一筋縄では行かない。多くの項目を拾い出してそれをどう数値化して行くかを考えるだけで、1ヶ月や2ヶ月以上は時間つぶしが出来そうである。
 倉田は何をやって来た人なのか過去を語りたがらないので良く分からないのだが、流石にフィクサーを自称するだけあってその交流関係は驚くほど多彩である。怪しげなブローカー、ヤクザ、右翼、同和といった連中は勿論のこと、名のある政治家、実業家から果ては聞いたことも無いようなアフリカや中南米の国の大使館員などとも付き合いがあるようである。



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