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『手』
【ホラー 官能小説】

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-1

とんでもないことをしてしまった。
智美は職場で患者にしたことを悔いながら家路を急いだ。なぜあんな淫らな行為に耽ったのか、自分でも分からない。智美は普段、決して目立つ方ではないが仕事は堅実で、その真面目な性格を誰もが評価していた。智美自身、自分に何か特別秀でたものがあるとは思っていなかったが、唯一の長所はそこだと自覚していた。
夫婦仲が悪いわけでも、セックスレスで欲求不満なわけでもないのに、木田の病室に入った途端、智美の中で眠っていた淫獣が暴れだしたかのように体が疼いたのだ。検温中にも関わらず、下着の中は生暖かいローションを垂らしたかのようにヌルヌルになっていった。木田が先に射精していなければ、智美はきっと自ら木田に跨がって腰を振っていただろう。
乳首が熱い。木田の部屋で愛撫をされてからずっと、むずむずと痒くて仕方がないのだ。勤務中も、自宅の鍵を開けている今も、まるで誰かに指先でこねられているかのような余韻が続く。夫としたい。そんなときに限って出張でいないのだ。
部屋を明るくすると、ベッドに横たわった。目を閉じてふぅ…と溜め息をつくと、トレーナーの上から胸に手を当てた。
あ…何かやばい…
柔らかく胸を揉み始めた時、甲高い耳鳴りが智美の耳を襲った。学生時代、受験の為に泊まった地方のビジネスホテルで味わったあの、金縛りの前兆だ。でも自分の家なのに何故…。恐怖を感じる間もないまま、両手を頭の上に押し付けられた。
途方もない悪意を知り、智美は戦慄した。
「いや…」
声が出た。体は…動かない。
「助けて…誰か来て!」
ふふふふ…クスクス…
女の嘲笑に声が出せなくなった。足掻く姿を見て楽しんでいるのか。怒りなど起きなかった。
怖い?すぐ良くなるから…
ボトッ…ボトッボトッボトッ…
「ひっ!いや!いやっ!来ないで!ひぃぃっ!」
無数の『手』が、智美の上に降ってきた。歯がガチガチと鳴り始めた。智美の恐怖など全く気にならない様子で、2つの『手』がトレーナーの中へ潜り込んでいった。
「ぎぃーっ!やぁああっやめて!来ないで!ああっ!あなたぁ!お願い誰かぁ!ああああ……やめて、やめ…誰か…………………………はぁ、はぁ、え?な……んっ…ちょっ…待っ…んんっやだ…うそ…何で……いや…待って…ダメ…」
震えが止まった。恐怖が薄れていく…乳首が気持ちいい。体の自由は戻らないのに、腰や足が無意識のうちにくねる。乳首への刺激に意識を持っていかれ、ショーツに『手』が滑り込んでいくことに気付くのが遅れた。
「あっ!やめ…だめ!あんっ…どうしてこんなこと…」
ヌルヌル…ふふふ…気持ちいいよね?昼からずっとだもんね…
かなりピッタリとしたパンツを穿いているのに、『手』は自由に動き回り、陰核の包皮を剥いて円を描くように転がして来た。
「いっ…いや…こんな…あっ…んんっ!そこ…怖いのに何でぇ…やぁぁ…あっ!あっ!」
別の『手』がパンツとショーツを一気に剥ぎ取り、両方の足首を掴んでV字に持ち上げた。さらにもう一組が、智美の尻を左右に開いたところで智美が叫んだ。
「待って!それはいや!それだけは絶対にいや!」
何をされるのかが分かってしまった。看護師という職業上、肛門による性交がいかに不衛生で危険なものかを知っているため、智美は他者からの肛門への刺激に対して激しい嫌悪感を抱いているのだ。
声も出るのに、愛撫で体は震えるのに、どんなに抵抗しても肛門括約筋に力が入らない。
「やっやめ……うあっ!あっ…なんでよぉ…こんなのいや!やだぁ!やだぁ!」
嫌悪感しかなかったはずなのに、誰にも触らせたことがなかったはずなのに、最初からそこが性感帯だったかのように智美の腰は跳ね上がった。
「いやああ…お尻はだめぇ…いくっ!あああああっ!待って…もう許して!いや!お尻でいくのはいやああ!あっ同時に入れちゃ…あんっ!あっ!あああっ!」
二穴を指で掻き回され、Gスポットも、陰核も、乳首も同時に責められ、智美は朝まで泣き続けた。

その時間、看護師の與田は病室で寝息を立てている木田の検温をしていた。
與田は全く気付かなかった。目に見えない『手』で木田が金縛りに会ったまま蹂躙され、前立腺を刺激され、何度も射精を繰り返しながら声が出せないまま泣き叫んでいたことを。


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