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花びらとナイフ
【その他 官能小説】

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花びらとナイフ-2

 「君、綺麗な髪してるね。でもちょっと伸びすぎかな。」
 まさか。今度は私の自慢の真っ黒ツヤツヤの髪を切る気なの?冗談じゃ…
 「ねえ、髪と耳たぶ、どっちを切られたい?」
 「か、髪。」
 髪はまた伸びるが耳は生えない。山中先生がフルパワーで頑張ってくれても、耳を生やせるようになるのはまだまだ遠い未来だろう。
 「そうか、君みたいにとびっきり可愛い子に切って欲しいと言われちゃあ、断れないなあ。」
 「断れますよ。」
 「どこから切ろうかなあ。」
 「聞いてます?」
 「もちろん。とてもよく聞こえてるよ。少し高めでやや掠れたような、とっても可愛くてセクシーな声だね。」
 高いのも掠れてるのも、緊張と恐怖のせいだと思う。
 「このあと、もっと可愛い声を聞かせてもらうけどね。」
 ゾク、っと怖気が走った。
 ガシッ。
 「ああっ!」
 いきなり髪を掴まれ、そのまま引き寄せられた。目の前数センチに男の顔がある。笑顔を浮かべているが、瞳の奥に灯りは点っていない。
 「い、痛い…」
 「大丈夫だよ、髪に痛覚は無いから。」
 「いや、頭皮が。」
 ザクッ、ファサァ。
 肩甲骨まであった自慢の髪の左側面が切り落とされ、床に落ちて広がった。
 「嫌っ!」
 思わず叫んでしまったが、耳を切られるよりはマシだ。髪はまた伸びるけど、耳は生えないんだから。
 「髪はまた伸びるけど、耳は生えないよね。」
 あれ?なんで私の考えていることが分かるんだろう。
 「完全に、じゃないんだけどね。」
 「?」
 「感じるんだよ、ナイフを通して。」
 「!」
 「そう、相手の考えていることがね。いや、感情が、と言うべきか。」
 「超能力!?」
 「いやいや、そこまで凄いものじゃないよ。なんだか知らないけど、フワっとした空気の塊みたいなものが時々他の人から飛んでくる。君だってあるだろ?触れられてもいないのにプレッシャーを感じたりすることは。」
 「ああ、はい、あります。たった今もスゴいプレッシャーを感じてます。」
 「だろ?僕の能力も基本はたぶん同じだと思う。普通の人より敏感なだけで。しかもね、グっと高まるんだよ、刃物を持つと。」
 彼は手にしたナイフを眺めている。
 アブナイ…本格的にアブナイ人だ。
 「アブナイよねえ、そんなヤツに捕まった君は、とってもアブナイ状況にあるというわけだ。」
 「そんな…」
 どうする。考えている事ばかりか、感情まで知られてしまうなんて。どうやって逃げれば…。
 「まあ、感情にも色々あるけどね。僕が特に感じやすいのは恐怖と欲情。」
 「よ?」
 「欲情。性的興奮だよ。」
 「せ、せ…」
 「何トボけてるんだい?しょっちゅう自分でしてるくせに。」
 「ど、どうしてそれを…」
 「やっぱりか。」
 「え?知ってたわけじゃ…」
 「ないよ。可愛い顔して性欲は強そうだなあとは感じるけど。」
 私は顔から火が出るほど赤くなって俯いた。
 「恥ずかしがるようなことじゃない。性欲があるから人類はここまで生き延びたんだから。ただ…」
 「ただ?」
 「性欲が人を狂わせることがよくあるのもまた事実。」
 不倫とかの事かなあ。でも、人の性欲ってそこまで強いものなんだろうか。
 「強さだけが性欲のやっかいな所じゃないよ。」
 「はあ。」
 彼はナイフの刃先を昆虫の触覚のようにユラユラさせている。
 「SMって知ってるよね。」
 「あ、あの…。」
 「だからトボけるなって。」
 ヒュッ。
 目の前にナイフが突き出された。
 「ひっ…し、知ってます。ネットの動画や画像で見た事があるだけですけど。」
 「で、どう思った?」
 「どう、って…ワケ分かんないですよ、叩いたり縛ったりツネったりロウソク垂らしたり。」
 「性欲と何の関係があるのか分からないだろ?」
 「ええ。その通りです。」
 「ネットで見れるのはぶっちゃけ作り物の芝居だけど、リアルなSMは実在するし、少なくとも、それを見て性的に興奮する性癖の者は少なからず居る。」
 「まあ、そうでしょうね。でなければ、いくら作っても商売になりませんよね。」
 「ほう、さすがに理解が早いな。社長の娘だからね。」
 偏見だよ、そういうのって。私、下から数えた方が早いからね、成績。
 「で、だ。理解の早い君なら、どうして僕がこの話をしているのか、そろそろ気付いてるんじゃないか?」
 「…。」
 気付きたくなんかなかった…けど。
 「さて。」
 再びナイフが私の胸元に近づいてきた。
 「はあっ!」
 ブチブチィ、パララン…。
 「うぅ…。」
 涙が滲んできた。何でこんなことをされなきゃいけないの?
 「君が可愛いからさ。」
 ボタンを全て切り落とされて前が開いてしまったブラウスの隙間から、私のお気に入りの淡い水色のブラが見えている。
 「下着も可愛いし。」
 ナイフが揺らめいた。
 「やめ、やめ…」
 私は思わず胸の前で両手をクロスさせ、ブラを隠した。
 「手を切られると痛い。ブラを切られても痛くない。さあ、」
 「…ブラをどうぞ。」
 両手をダラリと下ろし、横を向いて目を閉じた。
 ザクッ。
 胸元が妙にラクになった。
 ハラリ。
 中央を切り離され、左右に捲れたブラに、もはや私の乳房を隠す能力はない。


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