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花びらとナイフ
【その他 官能小説】

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花びらとナイフ-1

 「ん…?」
 眩しい。私は、開きかけた瞼を思わず閉じた。
 「おはよう。」
 不意に、男の声で呼びかけられた。
 「よく眠っていたね。そのベッドは気に入ってくれたかな?」
 私は、まだぼんやりとした意識の中でようやく薄目を開け、声のした方へと視線を向けた。そこには知らない男の人が立っていた。
 中肉中背。体型にこれといった特徴は無いけど、敢えて言うならやや細身。
 フワリとゆとりのあるベージュのチノパンに、同じくゆるフワのライトブラウンのブレザー。シャツはごく普通のグレーのワイシャツで、ネクタイはしていない。
 柔らかそうなブラウンの髪は、ふんわりエアリーに纏まっている。
 私は警戒しながらゆっくりと上体を起こし、足を下ろしてベッドの縁に腰かけた。その男の人とは2メートルぐらい離れている。
 「驚いただろう?目が覚めたらいきなり知らない部屋で知らない男が居たんだから。」
 「あ、はい…。」
 とても気持ちの落ち着く穏やかな声だ。そして優しそうな眼をしている。
 「あの、私…事故にでもあったんですか?」
 下校途中、いつものように友達と分かれ道でバイバイしたところまでは覚えているんだけど、そこから先がさっぱり分からない。その時のままの制服を着ているから、急な事故か病気で意識でも失ったんだろうか。
 「事故。そう、事故だね、ある意味。」
 「やっぱり…。」
 でも、事故にしては体のどこも痛くないし、血もついていない。気を失う程の事故だったら、もっと痛いんじゃないのかなあ。
 「事故、って言うと、普通は交通事故を思い浮かべるよね。」
 「ええ。」
 「でも、例えば放送事故っていうのもある。」
 「はい。言ってはいけない事を言ってしまった、とかですね。」
 彼はにっこり微笑んで頷いた。
 「そう。そして今回の君の場合は、してはいけない事をされたから、やっぱり事故と言えるのかもしれない。」
 「…してはいけないこと?」
 「まだ分からない?君は僕に誘拐されたんだよ。」
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
 「…ゆ、誘拐!?」
 「下校中に一人になった君に催眠薬をかがせて眠らせた。そして、そのベッドに寝かせたというわけだ。」
 彼はアメリカ人のように大げさに両手を上げる仕草をした。
 なんのために私を…その質問は、恐ろしくて口に出来なかった。自分でもはっきとり分かるぐらいに体が震えた。
 「なんのために君を誘拐したか知りたい?そりゃそうだよね。教えてあげるよ。」
 そう言うと彼は左手を腰のあたりに回し、スラリと何かを抜き取った。
 それは20センチぐらいの長さで、先端に向かうほど鋭く尖り、銀色に鈍く光っていた。
 「な、ナイフ…。」
 「正解。」
 ヒュン、ザクッ。
 「ひっ…」
 彼の閃かせたナイフは、私の制服スカートの中央をスパっと一直線に切り裂いた。そのスリットはパンティの手前ギリギリまで迫ってる。つまり、もう少しずれていたら…。
 「僕はね、若い女の子が好きなんだ。と言っても、若すぎるのは困る。君のように、少女でもオンナでもない年頃が好みさ。」
 男はいつの間にかすぐ目の前に迫っていた。しかし私は、恐怖で逃げることが出来なかった。
 「だ、だから私を狙って誘拐したんですか?」
 「それも正解。君は誰もが名を知る有名女学園に在籍し、容姿端麗なのにどこか幼さの残るあどけない笑顔が素敵な女の子。こんな上物、狙わないわけがないじゃないか。」
 「そんな勝手な!」
 逃げなくては…。そう思っているのに、体がうまく動かない。呼吸も乱れ、そのせいか肋骨のあたりがジーンとイやな痺れ方をしている。
 「まあまあ、慌てないで。ゆっくり楽しもうじゃないか。」
 「な、な、何言ってるんですか!私は楽しくなんかありません。」
 「そう?」
 間合いはさらに詰められ、左手に握られたナイフの切っ先が真っすぐに私の両目の中央に突き付けられた。その距離およそ10センチ。目が寄ってしまった。
 「うぅ…」
 殺される…そう思った。
 なぜこんなことに。誰とも知れない男に何処とも分からない場所で、ナイフで刺されて死ぬなんて。非現実的すぎて…笑ってしまいそうだ。
 男の唇が、ニィーと吊り上がった。
 「ほうら、楽しくなってきた。」
 「違います!」
 私に真っすぐに向けられていたナイフが横を向いた。
 「ふんっ!」
 パラ、ポロロン…。
 小さな何かが数個、床に落ちて転がった。それは、男がナイフで切り落とした私の制服ブレザーのボタンだった。
 「せっかく可愛いボタンなのにごめんね。でも、邪魔だから。」
 ブレザーの前の合わせ目が、ボタンが無くなったことで開いてしまった。
 「あ、あ、あの…」
 何がしたいのかよく分からなくて、私は疑問の目を向けた。
 「どう?上手いだろ。」
 「ええ、とってもお上手ですね。」
 とりあえず嫌味を言ってみた。
 「どうしてこんなに上手いと思う?」
 「さあ。」
 「いっぱい練習したからだよ。ふふ。」
 れ、練習って…つまりそういうこと?
 「つまりそういうことさ。」
 この人、イカれてる。しかも経験豊富?見た目や声の穏やかさはカモフラージュか、それとも。


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