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疼きに喰い込む赤い縄
【その他 官能小説】

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第二のメッセージ-3

 「冷めないうちに。」
 「はい、いただきます。」
 美味い。本当に美味い。それに、心がほぐれていくような何とも言えない芳香と喉越し。そしてすっきりとした後味。カラカラに乾いた喉に心地よい。
 「旨いだろ?」
 「ええ、とても。高いんじゃ?」
 「まあね。値段は言わないでおくけど、中国のある村のある山のある斜面の茶畑の、ほんの一部の特定の木でしか採れない茶葉さ。国内にはほとんど入ってこない。」
 テレビで見た覚えがある。そんな幻のようなお茶があると。
 「いいんですか?そんな貴重なものを。」
 「いいんだ。特別な日だから、特別なお茶を淹れた、それだけさ。」
 彼はもう一口飲み、満足そうに目を閉じた。
 私もいただいた。説明を聞くまでもなく、素晴らしいお茶だった。
 「あ、あの。」
 緊張がほぐれた私は、一つ気になったことを訊いた。
 「もしかして、先輩にも大事な人が?」
 ふっ、と笑ってもう一口お茶を飲んでから先輩は答えた。
 「居るよ。残念でした。」
 「ざ、残念って。」
 「あれ?俺の事狙ってないの?」
 「狙いません。」
 「俺が残念…。」
 二人は同時にお茶を口に運び、微笑み合った。
 「先輩も…苦しんだんですね。」
 「まあ、ね。」
 彼の顔に少し影が差した。
 「だから、きちんと決着を付けたかったんだよ。」
 「ここに呼んでくれたのは、そういうことだったんですね。」
 先輩は小さく笑った。
 美味しいお茶とお菓子、そしてとりとめのないバカ話をして二人は屈託なく騒いだ。
 話している途中で彼が音楽を掛けようとしたときは思わず緊張してしまったが、思い出の曲などではなくて、気さくなジャズだった。
 ポロローン。
 三十分ほど経った頃だろうか。先輩のスマホが着信音を響かせた。
 「…写真?」
 メッセージを見ながら先輩が呟いた。
 「写真がどうかしました?」
 「ん?あー、いやいや。」
 そこで私は、大事なことを思い出した。
 「あの、先輩…。」
 「ん?なに。」
 私は言い淀んだ。でも、言わないわけにはいかない。
 「蒸し返すようなんですけど、どうしても確認したいことがあるんですよ。」
 スマホの画面を見ながら首を傾げていた先輩は、私の真剣な様子に何かを感じたのか、顔を上げて座りなおした。
 「何かな。」
 「これ…」
 自分のスマホの画面を見せた。そこに写っているのは、あの写真だ。
 「どうして送ってきたんですか。それから、もう全部消してくれましたか?」
 画面を覗きこんでいる先輩の顔から見る見る笑顔が消えていった。頬がピクピクしている。
 「あ、ごめんなさい、やっぱりこの話は…」
 「…なあ、これって、俺の番号から送られてきたんだよな。」
 「そうですけど?」
 「そうか…。」
 彼は唇をギュっと結び、うつむき加減の顔を強張らせている。そして自分のスマホを見た。
 「おい、杉本。」
 「え?はい。」
 「俺が本当にあの日の事を清算するためにここに呼んだと思ってるか。」
 「…先輩?」
 「あの日、俺はお前を求め、お前は応じた。しかも、通常ならざるやり方で容赦なく責めたてられたお前は倒錯した被虐の快楽に目覚め、悦びの声を漏らし続けた。その快感を、お前のその体は忘れたとでも言うつもりか。」
 「な、何を言ってるんですか、先輩。」
 「今日俺からメッセージを受け取った時、どう思った?この部屋の扉の前に立った時、どういう感情をいだいていた?いや、思ったとか感情とかじゃない。」
 「急にどうしたんですか。」
 「お前の体はどういう反応をしたかと訊いているんだ、俺とまた会うことになって。」
 「あ…あの…」
 全てを見通すような目で睨みつけられた。
 メッセージを見て伊巻先輩の所へ行くと決めた時。この部屋の前に立ち、インターホンに手を伸ばした時。私ははっきりと自覚していた。自分の体の奥深くにくすぶる疼きを。


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