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疼きに喰い込む赤い縄
【その他 官能小説】

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第二のメッセージ-1

 伊巻先輩とのあやまちの直後に送られてきた画像のみのメッセージ。それは、情欲の狂乱の果てに恥辱を晒した私の写真だった。
 夫にバラすぞ、と脅迫され、さらなる関係を求められるのではないか、恐喝されるのではないか…。そんな恐怖と後悔と罪悪感が脳裏にグルグルと渦を巻く日々は、そろそろ二ヶ月が経過しようとしている。
 電話番号を変えようか、とも思った。しかし、そんなことをすれば幸雄さんが不信に思うかもしれないし、番号の変更を連絡しなければならない相手は気が遠くなるほど多い。親類縁者はもちろん、二人は同じ職場での結婚なので仕事関係やそれに付随する友人知人、念のためにと知らせてある取引先や付き合いのあるいろいろなお店など、数えきれない。
 いや、本当はそんなことよりも、番号を変えてしまうことに対し、私自身が抵抗を感じた。彼がそんな卑劣なことをするとは思えないのだ。
 番号を変えない。それはすなわち、また先輩からの電話やメッセージが来る可能性を断たないということを意味する。私は何かを期待しているとでもいうのだろうか。バカな。もうあんなことは…。
 だが、あの日以来、彼からは何の連絡も来ていない。もう来ないのだろう。万一、私がそれを望んだとしても、おそらくそれは来ないのだ。
 体の痛みはあの日から数日で収まり、一週間もしないうちに見た目も分からなくなった。二十代の私の体は、まだまだ生気に溢れているようだ。
 脅迫や恐喝への恐怖も時間と共に和らいでいった。しかし罪悪感だけは、後悔を重ねる度に凝縮され純化されて、消化不能の核となって私の心に定着してしまった。まあ、それもいずれは共存して生きることに慣れていくのだろう。いや、慣れるしかないのだ。
 幸雄さんは以前にもまして優しくしてくれる。最初のうちはそれがかえって辛かったのだが、今は素直に感謝するようにしている。
 私の好きなドラマの映画に連れて行ってくれたり、思い出の展望台にドライブに行ったり…。
 それはたまたま不倫の映画であり、たまたま伊巻先輩との悔恨の現場そのものなのだけれども、彼は純粋に私の為を思ってしてくれているのだ。
 私は今の生活に、徐々に徐々にだけれども馴染み始めていた。過ぎてしまった事には目をつぶり、なんとか幸雄さんとの穏やかな人生を取り戻していけそう…
 ポロローン。
 …。
 メッセージの着信だ。私の身は凍り付いた。
 電話番号で送ることが出来るキャリア純正のメッセージアプリを、私は普段は使わない。安いとはいえ有料だし、使い勝手が悪いからだ。友人知人も同じ理由で使わない。なので、キャリアからのお知らせ以外に着信することは無い。ただ一人、あの人からを除いて。
 ロック画面に浮き上がった電話番号は、予想通り最も見たくないものだった。
 開かずに無視してしまおうか。いや、もしも見なかったことで幸雄さんに直接コンタクトされて取り返しのつかないことになったら…。
 私は迷った。しかし、開くしかないのだ。内容がどのようなものであれ、しっかりとそれを知っておく必要がある。
 通知をタップする指が震えた。
 スマホは沈黙している。ギリギリのところで表示時間を過ぎてしまったようだ。
 ふぅ、とため息をつき、私はロックを解除して通知領域を引き下げた。何度見ても番号は変わってはくれなかった。
 「また写真かなあ。上手に撮れてればいいんだけど。」
 本当にそうだった時のショックを和らげるため、無理にふざけながらメッセージを開いた。
 …。
 私はじっと画面を見つめ続けた。タイムアウトしてロックが掛かるまで。
 スマホをソファーの上に放り投げ、トイレに立った。戻った私はもう一度画面を開いてメッセージを見つめ、チラリと時計を確認してから手早く身支度をして出かけた。

 他を圧倒する巨大なタワー・マンションのエレベーターに乗ったところで私の胸がドクンと鳴った。
 彼が金品を要求する気ならとっくにしているだろう。決定的な証拠写真を握っているのだから。おそらくそれは一枚だけではないだろうし、どんな状況を写したものか分かったものではない。いや、もしかしたら私の恥態はずっと録画されていたのかも…。しかし、それならば他の写真数枚と銀行口座番号をメッセージで送り付けてくれば事足りる。なのに、わざわざ居所を知られる危険を犯して呼び出したということは…その目的は一つしか考えられない。
 エレベーターのドアがやけにゆっくりと開き、案内板に従って廊下を右へ。
 はあ…、はあ…。
 ふと気付くと、いつの間にか呼吸が乱れていた。階段を歩いて上がったわけでもないのに。
 そして四つ目のドアの前に立った。
 インターホンに伸ばした手が宙を彷徨った。
 ガチャリ。
 私の方へスイっとドアが開いて来て、あやうく手をぶつけそうになった。
 ドアの隙間から伊巻先輩がやや緊張した面持ちで私を見つめている。
 「入れよ。」
 「あ、はい…。」
 招き入れられるままに部屋に上がった私は、一番奥のリビングに通された。
 「やあ、久しぶりだね。十年ぶりよりは最近だけど。」
 先輩は、二ヶ月前に会った時と同様、朗らかな笑顔を浮かべている。
 「お茶、淹れるね。特別な奴だよ。」
 そう言ってカウンターキッチンの裏側に回り、コポコポと急須にお湯を継ぎ始めた。
 「あ、お構いなく…。」
 「もうお湯入れちゃったよ。」
 そう言って彼は屈託なく笑った。
 しばらくすると、急須、湯飲み二つ、そして和菓子をいくつか乗せたお盆が運ばれてきた。


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