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『手』
【ホラー 官能小説】

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-2

変わり者として知られる陽菜だって、男性経験はある。しかし、性的悦びを味わう事があっても満足したことはなかった。同世代の、やりたい盛りで猿同然の男しか経験がないのだから仕方のないことかもしれない。だが、付き合った2人の彼は、いずれもいろんな意味で陽菜をがっかりさせるだけだった。
私は男に縁がない。その結論に達してからは彼氏も作らなかったが、ホルモンのバランス的に体が疼く時は自分の指で慰めた。付き合った男よりも自分の指の方が幾分かマシだった。
「経験が少ないみたいだけど、いい感度してるのね。いい物件見つけたわ」
艶かしく動く『手』は、陽菜の両方の乳房を優しく撫で、乳首をつまみ、指先で転がした。乳首ってこんなに気持ちがいいものだったんだ。それより、私の体がこんなに敏感だったなんて。自分で触った時も、こんなに乳首が硬くなるなんてなかった。絶妙な指遣いだ。
だけど、木田の話と違う。舌まで陽菜の体を這い回っている。それに…この『手』、いったい何人いるの?両方の足首を掴まれ、両手も万歳の状態で指を絡ませるように握られ、押さえつけられている。決して『手』だけの重さではない。明らかに人の体重がかかっている。そして両方の乳房を愛撫されながら…パンティーラインを指で何度もなぞられる。こそばゆい、でも…。
「でも気持ちいいんでしょう?我慢しなくていいのよ」
心の中で必死に読経したが、煩悩に飲まれる恐怖感が邪魔をした。
いきたい…。その気持ちが浮かんだ途端、愛撫が弱くなった。焦らされているのだ。身動きが取れず、声も出ない状況なのに、陽菜は必死に歯を食い縛った。そうでもしないと理性が負けてしまいそうだから。だが、『手』は何枚も上手だ。陽菜を弄ぶように愛撫を強めたり弱めたり、簡単に陽菜を打ち負かした。
「もぉいかせてよぉ…」
声が出た。
「え…あっあんっだめ…今のナシ!だめぇ!あっ!ああっ!あんっ!」
乳首だけで生まれて初めてのオーガズムを迎えてしまった。

「あの…木田さん?妹さん?」
「はっはい!え…あ、すみません」
不動産の事務所だった。ファイルを手に取っていた。時計はまだ昼間の時間をさしている。
「顔が赤いですけど…大丈夫ですか?」
「え…ええ、大丈夫です。ボーッとしちゃって、ごめんなさい」
陽菜は訳が分からなかった。何を経験したのか。現実だったのか。何を見せられた?私が経験したことじゃなくて、昔の入居者の記憶?さっきまで愛撫されていたかのように体が熱い。それに、ショーツの中が湿っていた。動悸も激しい。
「あの、兄以外の入居者の方はどうなんですか?下の階に住んでる方は、必ず日付が変わる頃に水を使うって。」
「今あのアパートに住んでるのはお兄様だけです…」
「やっぱり…そうですか…」
話を逸らそうとするが、先程の幻覚の余韻が強く、波が押し寄せるかの如く煩悩が大きくなっていくのが分かった。吉田の呼吸も少し早く感じる。
「吉田さん………入居者の方がどんなものを見てるか…ご存じなのでは…」
「…………何をされているかということですか?」
ああ、知っているのだと陽菜は察した。
「妹さんは聞かれたのですか?その…お兄様に…」
「ファイルを手にした時に映像が……見えてしまいました」
体の芯が熱くなっていった。種火が燃え移るように吉田の心へ移って行くのがわかった。吉田も何度も見せられていたのだ。入居者が味わってきた快感地獄を。だからこそファイルを手に取った時に一瞬陽菜がフリーズしたのが分かったのだ。見せられている世界の中で、これまでにない快感を与えられているということも分かっていた。
「結構長居してしまいましたね…」
「あと1時間はこっちには誰も来ません」
吉田が言葉を返すと、陽菜は吉田が掛けているソファーの隣に移り、スカートを捲り、ショーツを下ろした。今なら相手が誰だろうと、盛りのついた猿みたいになってしまうだろう。そう思いながらも陽菜は抑えることができなかった。吉田も理性が働くことはなく、一切の前戯もせず、2回り近く歳の離れた陽菜の足を押し拡げ、反り返ったぺニスを躊躇なく蜜穴に突き刺した。
「ひぃぅぅぅぅ…んんっ…んっ……んっんんっんっ…」
手で口を押さえ、陽菜は必死に喘ぎそうになるのを堪えた。前戯もなく、乱暴に腰を振るだけのセックスだが、それでも付き合っていた男よりは吉田の腰遣いは心得ていた。陽菜も男との交わりでこんなにも声が漏れるのは初めてだった。しかし、『手』たちに見せられていた世界で愛撫された時はどう足掻いても声を堪えることが出来なかったのに、こうして吉田の責めを受けても堪えられるということは………既に『手』が陽菜の体を手なずけたということなのだろう。
吉田のピストンが早くなってきた。古いソファーのバネが軋む中、手で口を押さえたまま、陽菜はピンと両足を天井に向けてVの字に伸ばし、吉田の下でいった。その絞まりとヒクヒクとした痙攣に耐えかね、吉田も陽菜の中で果ててしまった。


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