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良助
【青春 恋愛小説】

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2 順子-12

 「田宮は本当に物知りだな」
 「そうでも無いよ。小山君よりは多少知ってるという程度」
 「真に受けるんじゃ無いよ、良介」
 「えーと、素敵なシャンデリアですね」
 「真似すんじゃないの」
 「仲のいい御姉弟ですね」
 「本当。小山君から聞いていたのと全然違う」
 「何と言ってましたか? 良介は」
 「鬼って言ってました」
 「何?」
 「違う、違う。心を鬼にして僕を励ましてくれてると言ったんだ」
 「その件については後で決着を付けようね」
 「いいよ。遠慮しとく」
 「良介君は幸せだな。こんな美人のお姉さんに叱られるなんて普通の人には経験出来ないことだよ」
 「粕谷もそう言ってたな。こんな人に叱られてみたいって」
 「私が姉さんで良かったね」
 「だけど僕は田宮の方がずっと美人だと思うよ」
 「厭だ。そういうことは人の前で言わないの」
 「そうか? あれを言うな、これを言うなって段々田宮も大和田に似てきたな」
 「裕子? そうか。随分世話を焼くんだなって思ってたけど、小山君と付き合うと自然にそうなっちゃうんだ」
 「そうか?」
 「良介が子供だから女は仕方なく世話を焼くことになっちゃうんだよ」
 「僕も段々大人になってきてるつもりなんだけど」
 「当たり前よ。大人にならないと困るわ」
 「きっとお姉さんが良介君のことを猫みたいに可愛がっていらっしゃるんでしょう」
 「出来の悪い子ほど可愛いというのは本当ですね」
 「姉さん、いつもと大分違うね」
 「違わなくない」
 「僕のこと可愛いなんて言ったこと無いじゃないか」
 「さっき言ったでしょ? ぼんくらでも可愛いって」
 「そうか」
 「まあ、これから受験を控えているというのに、ぼんくらぼんくらと言うと本人のヤル気を損ねてしまいますよ」
 「ヤル気なんて初めから無いんです」
 「そうでも無い。結構やってる」
 「結構じゃなくて必死にやらないと駄目なの」
 「結構必死にやってる」
 「結構は余計」
 「ほら、マロングラッセが冷えちゃうよ」
 「蒸かし饅頭じゃ無いの、マロングラッセは」
 「やっぱり蒸かし饅頭の方が良かったんじゃないかな」
 「小山君蒸かし饅頭好きなの?」
 「うん、腹減った時あれ食べると最高に美味いと思う」
 「そうか、良介君は蒸かし饅頭が好きなのか。僕も若い頃近所に蒸かし饅頭の店があってね。当時は甘いものというと今のようにいろいろ沢山は無くてね。あの蒸かしたてのふかふかの熱い饅頭を買って食べるのが最高の楽しみだった。今コンビニで中華饅頭を売っているが、あれとは全然違って皮がふわふわして然もべたべたしていたんだけど、それが又美味かったね」
 「やっぱり日本人は餡こですよね」
 「そうそう。僕は酒を飲むようになって甘い物は苦手になってしまったけれども、偶に甘い物を食べたいという時にはやはり餡がいいね。西洋のバターとかクリームとかが混ざった甘みというのはどうも年取るとなじめないもんなんだね」
 「お父さん。マロングラッセ頂いておいてそれは無いでしょう」
 「あっ、そうだった。これは失敬。しかしマロングラッセは順子の大好物だろう?」
 「ええ、私は大好き」
 「今度は蒸かし饅頭持って来ますよ。な、姉さん。だから僕は饅頭にしようって言っただろう?」
 「いやいや、この次は是非手ぶらで来て下さい」
 「良かったね、良介。社交辞令にしても、又来て下さいと言われてるみたいだよ」
 「いえいえ、決して社交辞令ではありません。心から申し上げている」
 「社交辞令だってそれに答えるのが礼儀だって言ってたじゃないか」
 「は?」
 「何の話?」
 「姉さんまで呼ばれたのは社交辞令だと思うよって僕が言ったら、姉さんはそう言ったんだ」
 「それは良介がなんとか私を行かせまいとしているから、そう答えただけ」
 「ほう、お姉さんと一緒に来るのがそんなに厭なのかな」


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