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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-35


「ま、速やかに関係をお絶ちになる方が、世のため人のためでございますわねえ」

 いつの間にか姫乃先輩が美術室の扉に凭れていた。サーモンピンクに染めた長い髪をゆったりと束ね、はち切れそうな胸を大きく開けた危なっかしいシャツを揺らし、まるで何かの女王様のようなピンヒールのパンプスを床に響かせて草冠の両肩を背後から優しく抱きしめる。

「私のいちごに変態のウイルスを感染させないでね」

「そっちのウイルスの方が深刻だと思いますが。草冠の家の跡継ぎが居なくなりますよ」

 考えてみれば、黎明学園美術室の主である草冠いちごの所に、いちごと限りなく危ない関係の姫乃先輩が付きものなのは当たり前か。

「よっぽどいい男なんだろうね」

 僕の脳裏に郁夫の滑らかな筋肉質の身体がノイズとなって襲いかかる。

「ほお。顔色が変わるくらいいい男なんだ」

 姫乃はいちごのふんわりした茶髪のくせっ毛に頬ずりしながら薄笑いを浮かべた。これがこの間車の中で泣いていた少女と同じ人間とは思えない。

「……最初から人並みの幸せなんか、望んじゃいないよ」

 自分でもぞっとするほどの冷たい声だった。
「だから、夢を見るのさ。叶えられない願いを『夢』って呼ぶんだよ。知らなかったかい?」
 身体の奥底に僅かに残った「何か」が僕を狂わせる。うな垂れたままの僕の冷気に、姫乃も、いちごも凍り付いた。
 僕は知っている。誰もいない河原で夜が更け警官に補導されるまで座り込んでいた「僕」を。駅のホームで待ち続けたあげく眠りこけていた「僕」を。抱いてくれたJRの駅員さんの暖かい掌を。何日経っても誰もやってこないマンションの部屋で糞尿にまみれていた餓死寸前の「僕」を。狂乱状態のために救急車の中で筋肉注射を打たれて失神した「僕」を。過量服薬で血圧が30しかなくなった「僕」を。大勢の大人にこづき回されて土を口に詰め込まれた「僕」を。何人もで風呂の中に頭を突っ込んで溺死寸前にされた「僕」を。人工呼吸して助けてくれた知らない黒い影も。砂鉄を入れた袋で外から見えない傷を刻む老婆に許しを乞う「僕」を。「訓練」と称して手足の関節を外されて階段から突き落とされた「僕」を。それから、それから!

 「僕」は「僕」を知っている。

 「ゴンッ」と音が聞こえて、美術室に鈍く言葉にならないうめき声が響いた。

「───ッツぅぅぅぅぅ──またやったわ」

 黒い薄手のセーターの長く細い腕が額を押さえて扉の前に揺れていた。

「日本は世界標準じゃないと思うわ。まったくもう。ああ、めんど。」

 綿星は濡れ場のような短い黒髪を振り払って、腰に両手を当てて美術室を見回した。

「あらら、みんな揃っちゃって。まあ、私が詩音にここに隠れてろって言ったんだけど。バスケット部の顧問のセンコーがしぶとくてねえ。」

 綿星は黒のバックスキンの靴音を響かせて、詩音に歩み寄る。

「あれ? 本館は土足でいいのよ。しょうがないなあ、詩音、サンダルに履き替えに行こう。それから──」
 綿星は凍り付いている姫乃と草冠に言った。

「こういう変態だってねえ、生きているのよ。詩音、帰るわよ」

 詩音は綿星に抱きかかえられるようにして美術室を出た。

「男の癖に、なに黄昏てんのよ。さ、早くサンダルに履き替え──」

 綿星が開けた「天羽詩音」の下駄箱からは、詰め込まれる限界までの封筒が溢れ出して床に落ちた。古風な書簡風のもの、ガンダムチックなやつからお洒落な凝ったデザインのもの、そして中にはピンクやラベンダーの花柄があしらわれたキャラクターものまで。あからさまにハートのシールで封印されたのまであった。これはもはや性別を超越している。

 呆れて床を見つめる詩音に綿星は言った。

「早くサンダルに履き替えなさいってば!」


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