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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-24


18

 全身に疲れが溜まっているのが解る。寮のドアを開けて階段を上ろうとしたとき、一心不乱に絵を描いている寮母さんがふと僕を見上げた。

「とっても似合うわよ、詩音君」と声をかけてきたので背筋が凍ったが、そのまま階段を上り続けた。寮母さんも知っている?綿星の力はどういう物なのだろうか。

 綿星の「206号室」の扉が少しだけ開いている。帰ってきたのだろうか。そのまま扉をノックなどしてみる。
 部屋の中からなにやら苦しげな声が聞こえたので僕は焦った。

「綿星、大丈夫?どうしたの」

「んー。ちょいヘビーだったので……まあ、明日からはどんどん楽になるけど…眠らせて。あ、食事はいらないから」

 暗がりから漏れ出てくる声はちょっとしゃがれていた。
 まあ、どっちにしても僕に出来ることは何もないと諦めて、自分の居室に戻る。それから、見渡してうんざりする。

「これをどうやって女の子らしい部屋にするってんだよ」

 カーディガンとシルクのシャツとリボン帯を脱ぎ捨て、椅子に座ってニーソックスを脱ぐ。さりげなくパッド(Aカップ)のついたブラジャーの肩紐を外し、くるりと回してホックを取って衣服の山に放り投げる。最後に忌々しい変形したローライズのシルクのパンティを足から脱ぎ取ると、全裸になって部屋を歩いた。

 カーテンが開けっ放しなのに気づき、慌てて閉める。あっぶねえ。僕は綿星が用意したネグリジェをうんざりして眺める。かわりにバスローブを羽織り、紐を無造作に縛りシャワールームに急ぐ。暖かい湯はすぐに出た。
 シャワーを浴び、髪を洗いながら、横目で鏡に映る自らの裸体を見つめる。骨張ったところの一切無い、見事にしなやかな身体につい見とれてしまい、気がついて顔を赤くする。何を考えて居るんだよ、俺!

 部屋に帰ると、また衣装探し。一番軽くて楽そうなグリーンの花柄のワンピースを選び。ちょっと考えてから、新しいパンティを足に通し、拘束具のようなブラジャーを再び身につける。ワンピースは緩やかなゴムが腰をキュッと締め、一回りしてみるとシャツよりよっぽど快適だった。再び「206号室」の扉を叩く。

「コンビニ行きたいんだけど、大丈夫かな」

「……問題…ない…よ」ゾンビみたいな声だった。でも、綿星が保証するのなら間違いは無いだろう。僕はサンダルを突っかけて、バッグを肩にかけて階段を降りた。

 コンビニまでの道のりで十数人とすれ違ったけど、特に問題はなかった。綿星の力。それはいったい何なんだろう?運命というものが、この僅かな期間に大々的に変化したことは認めざるを得ない。僕のお父さんはオタクな息子を失って、可愛い美少女を手に入れたことになるのだろうか。
 雑誌の陳列棚を前で立ち止まる癖は直らない。今週号のジャンプが山積みになっている。ついついそれを買い物かごの中に入れてしまった。それからカップ麺とコンビニ飯を物色する。

「あーのさあ、ちょっといい?」

 声をかけられ振り向いたとたん、心臓に杭が刺さった。それも銀の特別製。
 麻かなにかの落ち着いたベージュの上着に清潔そうなTシャツ。読めないぐらい小さな文字が入っているが明らかにブランド品だろう。パンツもざっくりした良い感じの生地でカットも巧みだ。

 その上に、ジャギーな品の良い髪と、少しだけ垂れ気味の優しそうな眼の底に誠実そうな光が宿っている。唇は薄く、キリッと微笑んだ口元が凛々しい。身長は──180ちょいぐらいで、何よりも足が長い。靴はDr.マーチンのような、がっちりしたもの。
 明らかにイケメン。頭に「超」が付くくらい。人柄の良さげな雰囲気がオーラになっている。年は──大学に入りたてって感じか。どこか、恥ずかしそうに僕を見ている。

「君、年はいくつぐらい?あ、失礼なのは承知の上で」

 混乱。僕は美少女を偽った少年という自分の立場にも拘わらず、根源的な本能が強力に表出して、混沌としたまま夢見心地になる。しかしこれは、もしかしなくても。

(ナンパだ────────────────!)

「ジャンプなんて読むんだ。僕も『ワンピ』や『ジョジョ』が大好きでね。話が合うと思って。『ワンピ』では誰が好き?」

「……黒足のサンジ」答えるなよ俺!

「やっぱねえ、サンジは女性ファンが多いってのは本当なんだ」

 イケメン青年は胸から取り出した煙草をくわえ、機嫌の悪そうな表情をしてパンツのポケットに手を入れて下目使いをした。「俺は死んでも女は蹴らねえ」
 思わず笑ってしまった自分が憎い。
 彼はほっとしたように煙草を胸に戻すと、やれやれというように服を叩いた。

「コンビニ飯を買うぐらいなら、僕に奢らせてくれないかな?そんなものを買おうっていうのなら、君の両親が外出中か、少なくとも今日は一人きりなんだろう?ささやかだけど、近くに知り合いのやっているレストランがあるんだ」

 瞬間的に頷いてしまうのを必死に堪える。

「そんな。悪いですから」

 彼はその一瞬を逃さなかった。

「いや、それが僕の幸福なんだ。君みたいな綺麗な娘と、一度で良いから食事して、話すなんて、生涯の夢なんだよ。ね、決まり。行こう」

 彼はさっと僕の荷物を取り上げるとレジに持って行った。

「そうだ、君がそのオーガニックな趣味の良いバッグを持っているってのは資源削減でもあるんだよね」彼は金を払い、ジャンプを僕のバッグに詰め込んだ。

「さ、すぐそこだし。時間は」ポケットからアンドロイドを取り出す。
「午後六時。最高のシチュエーションだねえ」



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