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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-22


17

「以外に上手じゃない」

 学校への道すがら、綿星国子は詩音に寄り添って歩く。

 僕はふんわりしたギャザーの着いた白い膝丈のスカートに、のど元までを隠す丸い襟の白いシャツ、それにパステルグリーンのカーディガン。深紅のリボン・タイと素足にサンダルという出で立ちで、おごそかに内股で歩く。
 5月の風はスカートを揺らし、剥き出しの太股にくすぐったくて何だかとても爽やかだ。スカートという物がこれほどまでに快適であるとは思わなかった。
 立ち振る舞いは昨日の綿星のレッスンで合格だったが、さすがに歩き方だけは難解にして維持が苦しい。

「女って、すっげえ難しいじゃん」

「なにより良かったのは、詩音のハニーボイスよ。女の子にしてはばっちり。逆にアルトの子の方が男みたいだよ。とっても自然な感じでザッツライってとこかな」

 二人は校門の石畳を踏む。慣れないヒールで少し身体がぐらついた。

「いい?今から放課後まで、私に話しかけないで。思いっきり力を使うから」

「その『力』ってのが意味不明なんだけど」

「説明は何日もかかっちゃうわ。あ、始めるからね。私にかまわないで」

 すぐ後から、クラスの吉田秋生が颯爽と追い抜いてゆく。

「おはよう。綿星、天羽。今日も綺麗だね」

 真っ白い歯を光らせてにこやかに手をふる。僕も、おどおどしながらも振り返した。
 吉田は何事もなく足早に石畳を踏んで校舎に向かう。何よりも僕に向かって「天羽」と正確に告げたのだあの男は。正解は「あれ?君誰。ひょっとしてひょっとして天羽?性転換マジしちゃったの?まっじーよそのカッコ」なはずなのに、何の不自然もなく僕をはっきり見つめて「おはよう、天羽」と言ったのだ。

 その後も次々と同級生達が交差し、用意してきた女子用の上履き(綿星がどっかからギッて来たらしい)をオーガニックなバッグから取り出して履き替えて教室に辿り着く。
 さて、ここからが難解だ。思わず綿星の二の腕を握ってしまう。
 綿星は僕を見下ろしながら笑みを浮かべ、頷いた。大丈夫だって事だろうか。
 綿星に続いて教室の中に入ったが、普段と変わることのない風景だった。特にどよめくこともなく、平和な朝の教室以外の何物でもない。
 席に着くと、草冠いちごがやって来た。今日は文字通り苺がプリントされたフリルの付いたワンピース。「完璧すぎて、感動ですわ」小声で呟き、自分の机に帰ってしまった。
 風景は同じ。違うのは自分の性別だけ。無理をしないで沈着冷静に。目立たぬようにと心に言い聞かせるが落ち着かない。落ち着くはずもない。

 重要なのは「役」になりきってしまえばいいだけだ。
 トイレに入るのには一瞬眼をつぶったが、綿星に聞いたように一回水を流し、その音に紛れて用を足した。水資源の浪費初体験。そのまま、本当に何事もなく席に着く。
 教室に入ってきた鈴木先生は出席簿を拡げて、出欠を取る。

「あー、天羽詩音」

「……はあい」

 先生は分厚い眼鏡をずりあげて詩音を見つめる。

「あー、いろいろ、大変だったようだな。君くらいの年ごろの女子は生物学的に成長期の過度期にあたるから、貧血を起こしやすい。皆も注意してやってくれ。…伊野瀬清」

 どうやらこれは茶番じゃなくリアルな現実だと嫌でも認識した。


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