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悦子
【SM 官能小説】

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悦子-8

 「僕が実際にそういうことをした場合としなかった場合とで、僕の人柄はどのように違って来るのでしょうか」
 「そうですね。実際におやりなったのだとすれば先生の無頼なお人柄がよく現れていると思いますし、実際にはおやりならなかったのだとすれば、案外ロマンチストなのかも知れないという気がします」
 「そうですか。どっちも悪くないですね。まあ、作品の種明かしはしたくないので忘れたことにしておきましょう。だけど僕は初めて飲みに行った店の女の胸に歯形を残してきたことがありますよ」
 「まあ。それはあの歌とは関係ないのですか?」
 「ええ、あの歌は昔に作ったもので、歯形を残して来たというのはつい最近のことです」
 「それはどういう経緯でそんなことをされたのでしょうか?」
 「まあ酔っていたからでしょうね。行きつけの店で飲んで、それから又別の行きつけの店に梯子しに行ったんです。その店はビルの上の方にあるものだからエレベーターに乗った。すると何処かの店の女が数人今し方お客を送り出して店に戻るのと一緒になりました。いわゆる雑居ビルという奴で、どの階も飲み屋ばかりなんです。だからエレベーターでホステスと一緒になるのは不思議じゃない。酔っているから女に声を掛けたら、向こうも客商売だから数人いる女の中のリーダー格と見える女から『何処へ行くの。どうせ飲みに行くんでしょ? それならうちにいらっしゃい』と言われた。それで気軽に付いていってその店に行ってしまいました。まあ年は行っていたけれども実にいい女でしたよ。和服を着ていましてね、小股の切れ上がったというのはあんなのを言うんじゃないかと思った。それで店に入ると結構混んでいたけれども、その和服のいい女がそのまま僕の席に付いた。そしてボーイを呼ぶんで手を上げた途端に和服だから袖がずり落ちて二の腕まで露わになったんです。それを見て僕は何も考えること無しにその手を取って咬み付いたんですよ。本当は二の腕に咬み付きたかったけれども、無意識にちょっと遠慮したんでしょうね、ツベルクリンの注射をする時に肘のちょっと下、此処ら辺に刺しますよね。その辺りに僕は咬み付いた。すると女は驚いて『貴方はそういう趣味があるの?』と言う。『うん、僕は女の体に咬み付く癖がある』と答えたら、何とその女は何をしたと思います?」
 「何をしたんですか?」
 「気っぷがいいと言うか、和服の胸をグイとはだけて『此処に咬み付いてごらんなさい』と言ったんです。乳首まで露出した訳ではないけれども僕は上から覗きこんでいるのだから乳首まで見えましたね。それで僕はかなり酔ってもいたし、ハイな、という感じで直ぐに咬み付いてしまった。乳首よりも上だけれども咬んだ部分は乳房そのものでしたよ。咬みながら少し力を入れたり吸ったりしながら結構長時間そうやってました。口を放したら見事に歯形が赤く付いていた」
 「それでどうしました? 怒りませんでしたか? その方は」
 「いや、怒らなかった。自分からやってごらんと言ったんだから怒れなかったのかも知れないけど、本当にやったわねという感じの顔つきをして驚きながら笑っていた」
 「凄いですねえ」
 「その人はいい女の筈で、その店のママだったんだ。いい加減飲んだ所で腰を上げることにして勘定を頼んだら、普通より安いくらいの勘定書が出てきた。でも、後から思うと冷や汗ものでね。あんなことをしたのだから、ぼったくりバーのように高額な請求が来たとしても文句は言えないと思った。今でも考えると冷や汗が出ますよ」
 「でもいくら酔っていても普通の人はそんなこと出来ませんでしょう?」
 「いや、僕だってそんなことは普通なら出来ない。ただ、余りにもいい女だったんで、魔が差したというか、操られているかのようにそんなことをやってしまったんですよ」
 「でもそれは如何にも先生らしいお話だと思います」
 「ほう。僕のことをそんな男だと思っているなら、其処へ1人で尋ねて来るというのは危ない話だな」
 「危なくはありません」
 「そうかな?」
 「私は文学を志す者です。そんなおぼこでは有りません」
 「え? それはつまりどういう意味なんですか?」
 「先生が男で私が女であることは承知の上でお邪魔したと申しているのです」
 「ほう。それはつまり・・・」
 「いいえ、其処から後は仰らないで下さい」
 「仰らなくても君の言ったことの意味は歴然としているじゃないか」
 「ですから仰らないでと申しております」
 「うーむ」

 悦子は明治時代の若い娘のように髪に大きなリボンを付けていた。今でも卒業シーズンになると街で良く見かける袴スタイルの女性のような感じである。勿論悦子は袴は着ていない。シルクのような柔らかそうな生地の白いワンピースを着ていた。ふと見るとブラジャーが微かに透けていて、レースの模様が見える。下着も透けてはいないかと思わず腰の辺りを見てから慌てて目を反らした。すると悦子は立って、栄一の隣に座を移し「私の胸にもどうぞ赤い薔薇を付けて下さい」と言った。


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