むしばみ-5
グチュグチュと粘った音が、狭い室内へ響いている。
リップクリームすら塗られていないが綺麗な艶のあるピンクの唇端から、時折唾液がこぼれ小さな顎へとつたい滴る。
元々端正な顔は小顔で、そのパーツである唇も陰茎を頬ばるには幅が狭い。
それでもぽってりとした唇は大きく拡げられ、グロテスクな陰茎を咥えると長い黒髪を揺り動かす。
粘膜の摩擦を繰りかえす度に口内に唾液が溜り、どうしても唇端からこぼれるだけではおさまらい。
それを迷うことなく、細い喉を鳴らせて嚥下する。
『ペニスを咥えている恵利子の顔、もっと良く見せて欲しい。素敵だよ』
低い声であったが、優しい囁きに聞こえた。
男の手はエンジェルリングが浮かぶ黒髪から頬へ、そして淫液の付着する顎へと下りていく。
『この半年の間にとても上手になった。とても綺麗だ、恵利子』
恵利子は男の言葉を耳にすると、髪を揺らすことをやめ上目遣いで窺う。
その瞳は目の前の男に向けられながら、どこか遠く違う世界に向けられているようであった。
それは今までにも何度か起きた既視感…… 同時に頭の奥でミシリミシリと何かが目覚めはじめる。
今までの恵利子ならフェラが上手と言われても、その恥辱に心を苛まれるだけであった。
だが、今は不思議な感覚に囚われる。
咥えさせられながら愛でるように髪を撫でられると、その感覚が増々色濃くなっていくのだ。
（以前にも同じことが……？ そんなはずは…… ない！？）
見下ろしてくる男の視線にハッとさせられると、恵利子は顔を大きく前後に動かす。
舌の先を亀頭のくびれにあてると、唇で圧迫しながら指三本分の幅をズズっと滑らせる。
生い茂る陰毛が邪魔にならぬよう、陰茎根元を掴む指先でもしごき動かす。
左の掌は陰嚢に添えられ、睾丸を転がす。
すべてはレイプにより純潔を奪われてから、打ち震える恥辱の中で強いられ続けた行為。
憧れの女子校、その制服に袖を通した時には、こんなことは想像すらしていなかった。
≪セックスは好きになった人とだけ…… その人の子を産む為にする特別なこと…… だから簡単に許してはいけない≫
恵利子はいつの頃からか、憧れの女子校O.G.でもある母から繰りかえし教えられた。
だから見知らぬ男の陰茎など見たくもないし、触れたくもない。
ましてや口に含むなど論外で、そのすべてが悍ましかった。
それなのに恵利子の舌は亀頭が硬くなってきたことを。
唇は陰茎が脹らみ熱を帯びてきたことも感じ取り、射精の予感を知らせてくる。
陰茎先端から立ち昇る臭い、むせかえるような“おとこ”の臭いに。
息苦しさが増し視界がぼやけ、頭のなかに霞がかかってくる。
（くっ 苦しい…… 苦しいよう。だっ、誰か、誰か助けて）
≪……お兄ちゃん、苦しいよう。お兄ちゃん、たすけて…… ≫
幼きの頃の恵利子の声が聞こえてくる。
（おっ、お兄ちゃん…… お兄ちゃんって、誰？）
不意にそんなビジョンが浮かんでくる。
そこには幼かった頃の恵利子と、少年……？の姿が思い浮かぶ。
けして思い出すことが叶わなかった記憶。
失われていた記憶の…… その深淵の一端が不意に見え隠れする。
（こっ、怖い…… でもっ、思い出したい ）